2 / 14

第2話

 突然そんなマンガみたいなサービスを受けて、当然俺は戸惑ったさ。しかも、差し出されたショートケーキはこの店で一番人気の商品だ。  甘くて優しい味わいなのにいくら食っても胸やけしない不思議な生クリームと、この世界で一番ウマイんじゃないかってくらい絶妙な甘さと酸っぱさを誇るイチゴ。極めつけにフワッフワのスポンジときたら、最高すぎるだろう。  確実に欲しいなら予約しないとダメだってくらい人気のショートケーキ……俺が注文しようと思った時には『売り切れです』って言われたのに、何でここに置いてあるんだ? 「ボク、毎日そのショートケーキ予約してるんで……お兄さん、なんだか落ち込んでるっぽかったから、特別ですよ?」  そう言って、少年のような店員がはにかむ。それは俺が求めていた答えだった。  どうやら俺は、初対面の男に『この人落ち込んでる』と確信を持たせるくらいには落ち込んでいたらしい。失態だ。まぁ落ち込んでるのは本当だから仕方ない。  ――それもこれも全部、あのおっぱいのせいだ……!  思わず鬼気迫る顔をしてしまうと、少年店員はテーブルを挟んで俺の正面に座った。 「お客さんも減ってきましたし、ボクでよければ……お話、聴きますよ」  ふと周りを見てみると、少年店員が言う通り……客が減っている。まだいい雰囲気のカップルがチラホラと居るが、そんなことはどうだっていいか。  不思議の国のアリスがモチーフなのか、いかにもアリスが着てそうな服を着ている少年はもう一度、俺に向かってはにかむ。  落ち込んでいて、優しく微笑まれて、あまつさえサービスでケーキまで貰って……俺は思わず愚痴ったさ。 「今日、彼女に振られたんだ。クリスマスイブにだぜ? 笑っちまうだろ」 「それは……災難でしたね」 「ソイツ、メチャクチャおっぱい大きかったんだよ。スタイルメッチャよくてさ、もう、ボンキュッボーンって感じ!」 「素敵な女性ですね」  この少年店員……仮で、アリスクンとでも呼ぶか。アリスクン、凄いな。相槌が上手い。  気分が良くなった俺は、更にペラペラとアリスクンへ愚痴った。 「まぁ、ちょっとお高くとまってる感はあったし、会話も大して盛り上がらなかったけどな!」 「でも、好きだったんですよね?」  キラキラとした大きな瞳は、まさに【純粋無垢】といった感じだ。  俺は悪い大人だと自覚していながら、本心を口にした。 「いや、全然? ただヤりたかっただけだ! 別によぉ、穴の一つや二ついいだろって感じしないか? 聖夜を性夜にしてホワイトクリスマスつって、楽しんだっていいだろ?」  そう。別に振られたことはどうだっていい。  ただ俺は、セックスできなかったことだけが気に食わないんだ。

ともだちにシェアしよう!