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第4話
サンタからプレゼントを貰うには、いい子にしていないといけないらしい。そんな話はガキの頃、両親から死ぬほど聞かされた。いい子になれっていう遠回しな嫌味だったと気付いたのは、割と最近。
まぁ、何が言いたいかと言うと……俺は今、メッチャいい子にしているという話だ。
アリスクンの仕事が終わるまで、俺は喫茶店内で時間を潰した。スマホを弄ったり、店内にある雑誌を見たり、闊歩するカップル共を睨み付けたり……そこそこ充実した時間の潰し方をしたつもりだ。
――そして、その時はきた。
「お兄さん」
背後から呼ばれ、俺は後ろを振り返る。そこに立っていたのは勿論、アリスクンだ。
アリスクンは笑顔を浮かべているが、その笑みは『可愛い』と一言では形容できないものだった。
「ボク、お店の二階で寝泊まりしているんです。だから、このまま……ね?」
戸締りも全て終えたらしいアリスクンは、どことなく妖艶な笑みをたたえている。それはとても少年とは思えない色気だ。むしろ、少年のような見た目だからこそエロく見えるのかもしれない。……何言ってんだ俺、意味分かんねぇ。
「おう」
席から立ち上がり、俺は先を歩き始めたアリスクンについて行く。二階へ続く階段を二人で上がり、少し進むと部屋が見えた。
「ボクの寝室は、こっち」
そう言って一つの扉をアリスクンが開ける。
中からは、甘い匂いがした。たぶん、バニラエッセンス的な匂い。生クリームとか、何か、そういう甘いモンの匂いだ。
そんな匂いを纏った美女を抱きたいとは思ったが……どうやら、少し違う形でその願いが叶うらしい。
「入っていいですよ」
「……邪魔する」
「ふふっ、どうぞ?」
甘い香りが充満する部屋に入ると、何だか頭の奥がクラクラしてきそうだった。
それは俺が甘党だからなのか、それともこの子の魅力なのか……。
「お待たせしてしまって本当にごめんなさい。今、お茶でも……」
申し訳無さそうな顔をしたアリスクンが、俺に背を向ける。水色のスカートが、ふわりと舞った。
歩き出したアリスクンの頭では、白いウサ耳が揺れている。そして、つられるようにエプロンドレスも揺れた。
――可愛い。
そう思うと同時に、体が動く。
「――焦らしてるのか?」
アリスクンの腕を掴み、引き寄せる。華奢な腕は力を入れたら折れそうだし、抱き留めた体だって簡単に折って箱に梱包できそうなほど、細身で小柄だ。
勿論、この子は男。抱き寄せたところで胸は当たらないし、どことなく硬い。
――だけど、いい匂いがする。
「慰めてくれるんだろ?」
「お、お兄――」
「『待て』なら聴かない」
身じろいだアリスクンの体を無理矢理引っ張り、部屋に置かれたシングルベッドに押し倒す。
「慰めてくれよ」
そう言って、アリスクンの胸に結ばれた黒いリボンをほどいてみる。
大きな瞳を丸くしたアリスクンは何かを言いたげに口を開き、にこりと微笑む。
「素敵な夜にシてあげます」
それは、あまりにも蠱惑的な囁きだった。
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