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第5話

 ――囁きの、はずだった。 「…………は?」  状況が、分からない。……よし、整理しよう。  俺はロリ巨乳に振られて童話、不思議の国のアリスに出てくるアリスみたいな少年にそのことを愚痴った。すると、その少年に『慰めてあげましょうか』なんて言われて、ホモじゃないけど可愛いしクリームみたいな安心感と優しさを感じたからオッケーとか思ったんだ。  んで、閉店時間と同時に寝室へゴー。アリスクンを抱き締めてベッドに押し倒してリボンをほどいて……おう、いい流れだよな。  ――じゃあ、何で俺は今……天井を見上げているんだ?  ――背中にマットレスみたいな柔らかさを感じているのは?  ――アリスクンが不敵に俺を見下ろしているのは、何だって言うんだ? 「お兄さん、か~わいっ」  …………何て?  まとまんねぇ思考は一旦放置し、目玉だけをキョロキョロと動かす。  顔の横には、華奢な腕が伸ばされている。……分かりやすく言うなら、押し倒すようにして腕が伸ばされてるって感じだ。怖い言い方するなら、腕に閉じ込められてらぁ。  ……え、いや、何で? 「……え、いや、何で?」  思わず考えていることが口から出てくるくらいには、動揺している。  冷静になれって言われても無理だ。  こんな、まるで。  ――俺が、抱かれそうになっているみたいな状況。 「ん? 何が『何で』?」 「いやいやいや! 分かるだろ!」  押し倒していたのは俺で、押し倒されていたのはアリスクンだった。  なのに、現状はどうだ! 押し倒されているのが俺で、押し倒しているのがアリスクンになってるじゃねぇか! これを疑問に思わず、冷静でいろって方が無理な話だろうが!  ギャンと吠える俺を見ても、アリスクンは不敵な笑みを崩さない。 「言ったじゃないですか。『素敵な夜にシてあげます』って」 「確かに言われたけども! 何だよこの状況ッ! これじゃあポジションが逆じゃねぇかッ!」 「『逆』?」  怒鳴り散らす俺とは対照的に、アリスクンはどこまでも冷静だ。不敵な笑みが一変、怪訝そうなものになる。  ――が、すぐに愉快そうな笑みへ変わった。 「プッ! アッハハハハッ! え、ウッソ! お兄さん、もしかして逆だと思ってたの? 何だそれ、ハハハッ! クッソウケんだけど!」  俺の言葉にだろうか。アリスクンがゲラゲラと下品に笑っている。  ――まるで、豹変だ。  ついさっき……本当につい一分ほど前までは可愛くて、どこか庇護欲と加虐心をくすぐられるような言動をしていた筈なのに。  今のアリスクンは、いったい何なんだ?  ひとしきり笑って満足したのか、アリスクンは片手の指で目尻に浮かぶ涙を拭うと、ニヤリと不敵に笑い直す。 「引くつもりは全く無いけど、一応謝っとくね? ……ボク、バリタチなんだ。勘違いさせてたならごめんね~?」  …………ばりたち?  誰が? というか、え?  ……アリスクン、そういうキャラなのかッ!

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