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第8話 *微
バリタチなアリスサンは、俺がどれだけ拒絶したって指の動きを止めやしない。むしろ、勝手に激しさを増してきやがるくらいだ。
「う、ぐッ、ぎ、ぃあ……ッ!」
「お兄さん、好き嫌いしちゃダメだよ? 甘い物ばっかり食べてちゃダメダメ。ほら、二本目もしっかり食べてね~?」
挿入された男の指をケーキと同じ扱いしやがるのは後にも先にもお前だけだろうな、マジで!
とか言いたいが、上手く言葉が出ない。それもそうだろう。俺のケツには絶賛二本目の指も挿入されたんだから。
ぶっちゃけ、痛くはない。嫌悪感と不快感と相当の憎悪はあるけれど、痛みはなかった。
――それが、困る。
「ほん、とに……や、め……ッ、ぎ、ぐぅう……ッ!」
二本の指をバラバラに動かされて、頭がパニックだ。集中なんてしたくねぇのに、意識がケツにしか向かわない。
指が抜き差しされる度、ヌチュヌチュと卑猥な音が鳴る。音の出どころが自分のケツだって考えると、虚しさしか感じねぇ。
――まるで、女のアソコみたいな音だ。
「が、ぁ……ッ!」
「抜いて~、また挿れて~、また抜いて~……ははッ! 律儀に全部反応してんじゃん! ほんっと、体はかっわい~!」
「じょ、だん――ぐ、う……ぅぐッ」
指を突っ込まれて、感じるはずなんてない。
何故なら俺は、男だから。
そんな女扱いみたいなことされて、善がるわけないだろ。
――そう、思っていたのに。
「くっ、ん……あ、は……ッ」
ほぐすようにケツん中を指で弄くられて、望んで出してるわけじゃないのに甘ったるい声が出てくる。
何でか勝手に潤む視界に、アリスサンが映った。
――アリスサンはそんな俺を、ニヤニヤと眺めている。
「お兄さん、素質あるじゃん。ホラ、三本目の指も入っちゃった~」
「素、質……だとッ、ふざけ――は、あッ!」
「気持ち悪いのは最初だけ。ホラ……今はどう?」
可愛い顔のくせしてオスみたいな目をしたアリスサンが、俺の耳元で低く囁く。
――やめろ。
――そんなこと、訊くんじゃねぇ。
答えたくないから、口を閉ざしたい。だけど、指を動かされたら勝手に口が開いた。
三本の指はピッタリと重ねられて、まるでチンコみてぇに奥をガン掘りしてくる。細いし華奢な指だけど、三本も重ねられればそこそこの太さにはなるさ。少なくとも、男のケツに突っ込んでいいものじゃねぇ。
「痛い?」
何も答えない俺の耳元で、アリスサンがもう一度囁く。まるで、答えやすい質問をあえて選んだかのようだ。
答えるつもりはなかったのに、頭が勝手に動く。小さく首を横に振ると、アリスサンの吐息が耳にかかった。……小さく、笑ったんだ。
「なら、怖い?」
それにも、首を横に振る。訊かれていることと、自分が答えていることは恐ろしさしかないのに……アリスサンの声は、どこまでも優しい。
――だから、油断した。
「じゃあ……気持ちいい?」
悪魔の囁きを天使の吐息と勘違いでもしたのか、俺の頭は勝手に上下へ揺れてしまったのだ。
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