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「ねぇ、ちょっと、あれって」 「何であの人がここに?」 クラスがザワつき始めた。 気になって野次馬根性で同じように視線の先を追う。 ドア付近にいたのは龍星だった。 「先輩!?」 立ち上がり駆け寄る。 「どうかした?」 「お前に用がある。ここじゃ面倒だから移動するか」 初めて先輩と話してレイプされたあの場所まで来た。 「お前、言いたいことは自分で言え。我慢なんてらしくないだろうが。文化祭、俺行くから」 「え」 「素直な方が俺は好き。文化祭、一緒に回るか」 それって…。 俺のために? 俺が諦めようと思ってたことを。 どうして、汲み取ってくれるんだ。 俺が寂しかったことを。 どうして。 「嘘じゃない?」 「そんな嘘つくか」 「じゃ、本当に一緒に回れるんだな…。嬉しい」 「何も感じなかった行事ごとが充と一緒なら何だって経験してみたいと思える。お前のおかげ」 ポンと頭に手が置かれ、撫でられる。 急に恥ずかしくなる。 「楽しみにしてる」 話はそれだけだ、と言い手を振って帰っていった。 嘘じゃないんだ…。 一緒に回れる。 迷惑かと思って、本当に行きたくないのかと思って、誘うなんてって思ってた。 言いたいこと言ってもいいんだ。 俺も、龍星と付き合ってから初めてなことが多い。気づかされることも。 教室に戻り席につく。 「なんだった?」 さっそく三鈴に聞かれる。 「あぁ、先輩と文化祭回れることになった。来てくれるって」 「なるほどね。予想通り」 「読み当たりすぎじゃね?」 「君らが分かりやすい行動してるからだよ」 「まじか」 内心ガッツポーズしてしまう。 先輩にしてみれば、最後にして初めての文化祭ってことだ。その相手が俺だということが嬉しい。 当日が楽しみだ。 そういえば! 《聞くのを忘れていた。午前午後都合がいいのはどっち?》 《午後》 やはり秒で返ってくる。 ということは、午前は仕事があるんだ! 気になるし、見に行ってみようかな。 タピオカ屋さん…普通に屋台でやるのかな。 どちらにせよ、店員って…龍星がやるには珍しい光景だろう。 からかってやろうか。 募る気持ちを胸に抱き、愛おしさに自分の腕をそっと抱きしめた。 だから分からなかった。 幸せすぎたのだ。浮かれすぎていたのだ。 忘れていたのだ。 彼が、伊藤龍星が沢山のセフレを持っていた時期があり、いまでもモテる状況は変えられず、俺なんかの存在だけでは足りないことを。

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