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君がため 第9話

 何事もなかったように、話の続きをしようとする。  いつか絶対、お前は鈍感だと言ってやる! 「俺の鞄は?」  弘人の台詞に、ピタッと足を止める。 「あ……」  急いで踵を返した。 「忘れてた」 「ええー! そもそもお前、なんで教室に戻ったと思ってんだ」  呆れた弘人の顔に、苦笑が浮かぶ。  その顔に一瞬、自分が見惚れた気がした。 「自分の鞄を取りに」  ボソリと呟くと、すぐに返された。 「俺のもだろ」  気付かせたのは『彼女』。 「そっちはついで」  すれ違いざま、自然に手が弘人の腕を掴んだ。そのまま引っ張って、階段を上がる。 「な、なんだよ」 「鞄取りに行くんだろ」 「1人で行って来いよ。俺、ここで待ってるから」 「いいけど。俺のしか持って来ないぜ」 「げーッ。反則! んで、歩き難ッ」  叫びながら、弘人は体を捻ってなんとか階段を上がろうと苦心している。  その必死なサマが笑える。  つんのめった弘人に、腕を持つ手に力を込めてやる。コケないようにという配慮だったが、只単に離したくないだけだったのかもしれない。

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