42 / 52
しづこころなく 第11話
しばらくぼんやりと桜を眺めていると、駆け寄って来る弘人の気配がして、顔を向けた。
「お前さぁ、確かに綺麗な桜だけど、明日でもよかったんじゃねぇの?」
夜だけの綺麗さってのも確かにあるだろうが、この桜なら昼間に見ても変わらず綺麗に映えるだろう。
「えー。お前明日の天気予報知らねぇの? 明日、雨だぜ」
何やら手に持っていたものを俺に押し付けながら、弘人が言う。
「祐志はコーラでいいだろ? おばさんにはコレ。紅茶好きそうだから」
「あぁ?」
手元を見ると、コーラとミルクティの缶が掌に乗せられている。
炭酸持ってんのに、走って来たのかよ、こいつ。
「母さんの分はいらねぇのに」
「まあまあ。俺の感謝の気持ちってコトで」
弘人は俺の隣に腰を降ろしながら、眩しそうに桜を眺めた。
「さっきコンビニの帰りにコレ見つけてさ、ぜってぇ祐志に見せてやりたいって思って。――あ、天ぷらもらっていい?」
「ああ」
弘人はガサガサと袋を開けて、天ぷらの乗った紙皿と割り箸を取り出した。
「はい」
ともだちにシェアしよう!