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「早く食べてゲームの続きやろう」
「そうだね。一回位は勝ちたいし」
どこか焦っているように見える瞬に頷きを返しながら、食事を始めた叶多だけれど、珍しく陰ってしまった彼の表情が気になった。
「あのさ…… 瞬、どうかした?」
「小泉叶多って君?」
勇気を出して尋ねた所で背後からトンと肩を叩かれ、反射的に振り返った叶多は驚きのあまり固まった。
「……っ!」
『近付くな』と、言われたばかりの生徒会副会長がそこに立っていたからだ。
「え? あ、はい、そうですけど……」
しどろもどろになりながら、それでも何とか言葉を返すと、副会長の伊東圭吾いとうけいごは、「そんなに緊張しなくていいよ」と優しげな声で言って来る。
「食事中ごめんね。話があるから食べ終わったら、501号室に一人で来て」
「え? でも……」
柔和な笑みを浮かべながらも疑問形では無い言葉に、なんだか背筋が冷たくなって叶多は体を震わせた。
「圭吾、叶多は俺と約束してるから、また今度にしてくれないか?」
「瞬の頼みでもそれは聞けない。分かってるよね?これは決定事項だから」
「でも、叶多は……」
「…… 瞬、どうしたの? らしくないよ」
やり取りに……瞬が自分を守ろうとしてくれているのは分かったが、それ以上に、伊東を相手に対等に話す彼の姿に混乱する。
「…… 分かったよ」
諦めたように吐き捨てた瞬は、今まで一度も見せた事の無い鋭い視線を伊東に向け、伊東はそれを受け止めながらも余裕ありげに微笑んだ。
「それじゃあ、また後で」と、手をヒラヒラ振った伊東が立ち去った直後から、何故か周りの生徒達がこちらを見ながらヒソヒソ話をし始める。
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