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「戻ったら、ゆっくり話そう」
「うん、分かった。じゃあ……行って来るね」
笑みを浮かべて答えながらも、叶多は内心、きっとこの先に良い展開は待っていないと、確信めいた予感を持った。
流石にそれを感じない程、良い環境では育っていない。
―― 大丈夫、時間が過つのを待てばいい。
いつも唱えていた言葉。此処に転入して来てからは、忘れたように楽しく過ごしていたけれど……以前は良く心の中で何度も何度も繰り返していた。
生徒会がなんで自分を呼び出すのかは分からないが、どんな内容であるにせよ、瞬を信じて答えればいい。あとは時間さえ過ぎ去れば、いずれ必ず解放される。
―― そう、いつだって僕は……。
そうやって、繋いで来た。
「待たせてしまってすみません」
「いいですよ。仕事ですから」
開けた扉の向こうには、叶多より少しだけ背の高い細身の学生が立っていて……淡々と話すその様子に、綺麗だけれどどこか冷たい印象を叶多は抱いた。
―― さっき……伊東って人と一緒にいた人だ。
この学校の生徒会は見た目の良い人ばかりだと……まるで現実逃避のように、叶多はぼんやり考える。思えば副会長の伊東も整った顔をしていたし、会長に至っては……遠目でしか見たことは無いがそれでも目を奪われた。
「私は書記で、射矢(いるや)といいます」
「小泉です。あの……」
「久世さんから何か話をされていたようですが……それは全て忘れて下さい」
エレベーターに乗った途端、振り返った射矢に言われて心臓の音が大きくなるが、動揺を見透かされないように何とか口を笑みに象る。
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