「話なんてしてないです。すぐに射矢さんが来たので」 「ならいいです」 「あの、それで……何で僕は呼ばれたんでしょうか？」 「残念ですが、私は余計な話をする権限を持っていません」 「じゃあ、誰に……」 「着きました。行きますよ」 　少しも残念そうじゃない口調でそう答えた射矢が、丁度停止したエレベーターを先に降りてしまった為、叶多は出かけた言葉を飲み込み慌てて彼の後に続いた。 「うわっ」 　驚嘆に、思わず声が出てしまう。エレベーターを降りた所に広がっていた光景は、同じ寮でも叶多達の住むフロアとはまるで違っていた。 「小泉叶多を連れて来ました」 　高級ホテルのような内装に思わず見入っている間に、射矢がインターホンを押して叶多の名前を中へと告げる。 「どうぞ」 「あ、はい」 　中からの声は聞こえなかったが、入れと指示があったのだろう……扉を開いた射矢に言われ、叶多は中へと足を進めた。 「では、私はこれで」 「え？」 　彼も一緒に入る物だと思っていたから驚いたが、言葉を掛ける間も無いままに扉は外から閉められる。カシャリ……と、オートロックの掛かる音が、玄関内に大きく響いた。 「あ……」 「いらっしゃい」 　呆(ほう)けそうになる叶多の耳に間髪入れずに声が掛かり、弾かれたように後ろを向くと、唇だけに笑みを浮かべた伊東の姿が写り込んだ。 「どうぞ」 「あ、はい……お邪魔します」 　ここは伊東の部屋なのだろうか？　促すように指で示され叶多は靴を脱いで揃えると、そこに置かれたスリッパを履いて伊東の方をチラリと見る。