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「じゃ、ついて来て」 「はい」  それだけを告げ踵(きびす)を返した彼に慌てて続きながら、生徒会だというだけでこんな立派な部屋を宛がわれるのかと、叶多は内心驚きよりも呆れに似た感情を持った。 「連れて来たよ」  廊下はそこそこ長さがあり、突き当たりにあるドアの向こうへ声を掛ける伊東を見ながら、ここは彼の部屋では無いと認識した次の瞬間。 「入れ」  中から響いた低い声に、心拍数が一気に跳ね上がる。 「入って」 「あ……はい」  伊東に言われ、小さく返事をしながら前へ踏み出した叶多は、開かれたドアの向こうでソファーに座る人物が見えた刹那……多少想像はしていたものの、緊張の余り胃の奥の方がギュッと鈍く痛むのを感じた。 「そんな緊張しないでいいから座りなよ」  叶多の後ろに回った伊東が肩を軽く押してくる。  長身な彼が背後に立つと、圧迫感から余計に動悸が激しくなってしまうけど……悟られぬように叶多はゆっくり脚を踏み出し、対面に置かれているソファーの所へ移動した。 「失礼します」  テーブルを挟み反対に座る人物に軽く頭を下げると、伊東の指示に従う形でソファーへと浅く腰を下ろす。  生徒会に呼ばれたからには彼が居る可能性も小さくは無いと思っていたが、実際に間近で見るとその迫力に冷や汗が出た。  生徒会長の須賀悠哉。  普通に生活してれば絶対関わり合いにならない筈の人物が、今自分の目の前にいる。まるでこちらを値踏みするように、無言のまま見据えて来る強い視線が突き刺さり……叶多はすぐさま逃げたくなるが、それを堪えてギュッと掌を膝の上で握り締めた。

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