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「御園に捨てられて、今度は家に目を付けたって訳か? どうやって父さんに取り入った? 体でも使ったのか?」
「違います。取り入ってなんかいません。僕は、貴方のお父さんに会った事も無いですし、それに……」
「じゃあ取り入ったのは母親か。学費に加えて医療費まで出させるなんて、相当な女だな」
「違う……」
高校一年生の冬に、父親が突然他界して……もう路頭に迷うしかないと思っていた叶多の前に、救いの手を差し伸べたのは須賀の父親の方だった。
医療費と学費については叶多が働き出してから、少しずつでも返す約束と聞いている。公立で良いと言ったのに、費用を出す条件として、此処に入れと言って来たのは須賀の父親の方だとも。
――でも、言っても無駄だ。
今までの経験上、ここで叶多が何を言っても取り合ってなど貰えない。わざわざ自分の事を調べて、勝手な理屈を並べる彼を不条理だとは思うけど……ここは下手に言い返すより、黙ってやり過ごした方が得策と考えた。
「親子揃って淫売なんて……最低だな」
「……」
蔑むような須賀の言葉に、爪の痕が残る位、拳を強く握り込んだ。口では酷く罵りながらも口調はかなり淡々としていて、その温度差に叶多の中の恐怖心が煽られる。
「気に入らないな」
暫し沈黙が流れた後、須賀の良く響く低めの声が叶多の鼓膜を震わせて……つられるように顔を上げると、感情の読み取れない双眸と視線が絡む。
『何が?』と聞きたかったが、これほど直接的な悪意を初対面で受けた記憶は流石に今まで一度も無く……悪い事などしていないのに、重い空気に耐えられなくなり、叶多は思わず顔を背けた。
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