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「命令は、絶対だ」  綺麗な弧を描いた口がこれ程怖いと思った事は、今までに一度も無い。触れた場所から広がる悪寒に、これまで出会った誰より彼は恐ろしい……と、直感的に感じ取った。 「返事は?」 「……はい」  弱々しく掠れた声。そんな様子に少しは満足出来たのか……突き飛ばすように手を離されて、叶多はソファーに沈み込む。そして。 「後は頼む」 「了解」  ちらりと伊東へ視線を向け、一言告げるとそのまま須賀はリビングから出て行った。残されたのは情けなく震える叶多と背後に立つ伊東だが、どうでも良いから今は一刻も早く一人にして欲しい。 「小泉君の部屋はあっちだよ」  指で示された方向を見ると、ドアが二つ並んでいた。装飾が華美な大きな扉と質素な創りの普通のドアの、どちらが自分の部屋なのかなんて言われなくてもすぐに分かる。 「あとこれ」 「え?」  差し出された携帯電話の意味が分からず聞き返すと、 「大事な物だから無くさないようにね。玄関のドアはそれを翳(かざ)すと開くようになってる。通話機能は須賀からの呼び出し専用だから、鳴ったらすぐに出るように」  笑みを湛えた伊東が答えた。  その雰囲気が、先程までとどこか違うと叶多は肌で感じるけれど、精神的に消耗していてそれが何かは気付けない。 「今はおかしな事ばかりだと思うけど、すぐに慣れるよ」 「……はい」  諦めに似た感情のまま、彼方が小さく返事をすると、肩を軽く叩いた伊東が顔を耳へと近付けて来た。

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