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「っ!」
「馬鹿じゃねーの?」
「……えっ?」
前のめりに倒れ込んだ叶多に浴びせられたのは……紛れもない悪意を持った、まるで別人の声だった。
「なっ……岩崎…君?」
急な変化に付いて行けずに内心かなり動揺したが、それでも何とか立ち上がって叶多は彼へと身体を向ける。
「これは、どういう……」
「こんなところに、一人でのこのこ付いて来るのが馬鹿だって言ってるんだよ。お前、自分の立場分かってねーの?」
クスリと笑うその顔が、いつも見せている彼の顔とは全く違っている事で、叶多は自分が不味い状況に置かれているとすぐに気付いた。
「……立場って?」
だけど……逃げようにも、入口を背に立っている彼は体格が良く、力で勝負をしても勝ち目は無いと叶多には分かってしまう。
「従者だよ。何でここに来たばっかりのお前なんかが選ばれたのかって、みんな不満に思ってる」
「それは、向こうが勝手に……」
「大体……久世さんにくっついてるってだけでもムカついてたのに、会長にも取り入るなんて、お前、ホント身の程知らずだよな」
「だから、そんなんじゃない。僕は……」
「うるさい。お前の話は聞いてない」
言いたい事だけ言っておいて、こちらの言葉は無視する彼に、叶多は小さく息を吐いてから唇を軽く噛みしめる。須賀はともかく、瞬の名前が出て来た事に驚いたけど、それについて問いかける前に、状況はまた変化した。
「お前みたいな家柄も悪い余所者(よそもの)を従者にして、ガードも付けて無いなんて前代未聞の話だよ。取り入ろうとして失敗したってトコかもね。大体、ノンケで有名な会長が、本気で従者を選んだとも思えない」
「……え?」
背後から響く違う声音に叶多は慌てて振り返る。
そこに居たのは見覚えのない眼鏡を掛けた生徒だった。
「……誰?」
ずっとそこにいたのだろうか? だとしたら、気配を全く感じなかった。身長は、須賀より少し低い気がする。顔はかなり整っているが、薄い唇と切れ長の一重瞼のせいで、酷く冷たい印象に見えた。
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