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「お願い、離してっ」  気を張るのももう限界で……とにかく今は一刻も早く解放して欲しかった。 「どうする?」 「どうするって……ダメでしょ。逃げるに決まってるし」 「だってさ、残念だったな」 「っ!」  耳元で低く囁く声に、更に震えが大きくなる。  仲の良い友人でさえ、抱き締められれば拒否反応を身体が示してしまうのに……自分に悪意を抱く相手に触れられて、平気でいられる筈が無かった。 「ここ何年かは会長が選んだ従者に手を出すなんて誰もしなかったのにね。まあそれはそれで平和だったけど、お陰でここにいる生徒達は波乱に飢えてる。そこに君が来たって訳。ここ一週間は様子を伺ってたけど……」 「やっ、やめろっ……離せ!」 「暴れるなよっ」  男が何か話しているが、全く耳には入って来ない。ただ……本能的な恐怖心から必死になって暴れていると、流石に持て余した岩崎が苛立ったように舌打ちをして、叶多の身体を抑え込むように机の上へと押しつけた。 「うぅっ」  角が丁度鳩尾に当たり、叶多はえづくが構わずそのまま身体を表に返される。 「押さえろ」 「了解」  岩崎の声に二人の生徒が腕をそれぞれ押さえ付け、あっという間に叶多の身体は実験用の大きな机に仰向けに縫い付けられた。 「やっ!」 「ガタガタ震えて情けないな……そろそろ諦めなよ」  顔を覗き込むようにして、男が告げて来るけれど、自分の意思では身体の震えを止める事なんて出来やしない。 「怖がらなくてもこれからちゃんと、気持ち良くしてやるからさ」 『気持ち良くしてやるから……』 「やっ……やあっ!」  男の言葉が頭の中で違う声音を呼び起こし……パニックになった叶多の顔から血の気が引いて蒼白になる。 「コイツ、ヤバくない? 大丈夫かよ」 「どうだろう? でも、だからって……何もしないで解放すんの?」 「今更だろ? どうせ俺らがしなくたって、誰かがコイツ捕まえんだから」  ―― 何? 何を言って……。 「だね。じゃあ予定通りってコトで」 「……っ!」  声と同時にシャツのボタンに手が掛かり、最後の力を振り絞るように叶多は手足をバタつかせるが、ガッチリ掴んで来る掌は全く緩む事が無かった。

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