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「いたっ……や、やぁ!」 「うるさい」  抑揚の無い冷たい声に叶多は身体を竦ませる。感情の読めない視線に見据えられれば動けなくなり、そのまま激しく突き上げられれば、悲鳴とも、喘ぎともつかない声を上げるしか出来なくなった。  ―― 怖い、怖い……。  全てを見透かすような視線が。  物のように扱う腕が。  ―― 逃げなきゃ……早く、逃げ……。  そこから先は本当に、地獄のような時間だった。  何度も須賀に胎内(なか)で出され、終いには、強制的に自分も射精させられて……心も身体も疲れ果て、声すら出なくなってしまい――。 『これからは……俺に呼ばれたら直ぐに来い』  朦朧とした意識の中、須賀に掛けられた言葉にちゃんと返事をした記憶も無い。意識が途切れる寸前に、これが全て悪い夢ならと叶多は強く願ったけど……そんな事はありえないと心の奥では分かっていた。 *** 「っ、うぅ……」  意識が戻ってまず聞こえたのは激しい雨の音だった。  ――ここ……は?  軋むように身体が痛い。重い瞼をようやく開くと、うっすら暗くなっていて……夕方なのだと思った所で記憶がハッキリ呼び起こされた。 「あっ」  小さく上げた掠れた声は、雨の音に容易く消される。  恐る恐る辺りを見ると、周りにもう人はおらず、生物室の机の上に放置された体には……どうゆう訳かグシャグシャになった制服が掛けられていた。  誰かが情で掛けてくれたのか、そのままでは見苦しいから掛けられたのかは分からないが、裸でそのまま放置されるより幾らかマシだと思う自分は、相当馬鹿なのかもしれない。  行為中、誰も助けてくれないばかりか、嘲笑っている生徒もいて……それを思い出すだけで、胸がズシリと重くなった。  ―― これから……。  どうしようかと考える。この学園から逃げ出す事はさっき決心したけれど、その為には、一旦自分の部屋へと戻らなければならない。荷物なんて殆ど無いが、制服姿で外へ出るのは流石に無理だと考えた。

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