40 / 301

38

 ―― 考えるのは、後にしよう。今はそれより……。  考えに深く耽る内に動きが止まってしまったけれど、逃げる方が先決だ……と、思った叶多はノロノロ動き、気持ちの悪い感触に耐えて、どうにか下着を身に付けると、グシャグシャになっている制服をなるべくきちんと着用した。  ポケットを探ってみると、鍵代わりの携帯は、きちんとそこに入っている。 「うぅっ」  足を踏み出せば今度はアナルに焼けるような痛みが走り、頭もクラクラしたけれど……叶多は気力を振り絞って極力普通に歩き出した。  下校時間は過ぎているから誰と会うとも限らない。第二校舎から寮の間に渡り廊下はついていないから、叶多は雨の降りしきる中を寮に向かってひたすら歩いた。  時間にしたら五分と掛からず部屋へと着ける距離なのに、自分で思っているよりずっと身体は疲れ果てていて。  ―― なんとか……部屋まで。  急に激しい動悸に襲われ視界が段々歪んで来て……真ん中を丸くくり抜いたように白い霞がかかってくる。途中、すれ違いざまに何人かの生徒が見ていた気がするが、それも気にならない位、意識を保つのに必死だった。    ―― もう少し……。  どうにか部屋へと戻った叶多は、真っ直ぐ自室のドアを開く。その時には……須賀が居るのか居ないのかさえ考える事が出来なかった。 「ぐっ……んうぅ」  激しい吐き気が込み上げて来る。それを必死に堪えながら、叶多は床に置かれたタオルを手に掴んで蹲った。  叶多の部屋は八畳程で、窓も無ければベッド等の寝具も無い。最初に荷物を運んで来た生徒に尋ねてみたものの、「必要無いと言われてます」と素気なくあしらわれてしまい、仕方ないから床に大判のタオルを敷いて、包まるように眠っていた。  ―― 起きなきゃ……はやく、出ていかなきゃ。  急がなければ、今すぐにでも何が起こるか分からない。

ともだちにシェアしよう!