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そう思わずに居られないだけの出来事が……起こったばかりなのだから。
―― 僕は……僕は、駒なんかじゃ……。
知らない男に言われた言葉が頭の隅をふと過ぎる。遊びの駒だと言われたけれど、これは遊びなんかじゃ無い。
「いや……だ」
意識が途切れてしまう恐怖に叶多は小さく喘ぐけど、重たくなってしまった瞼は本人の意思を裏切って――。
「や……」
暗く染まった意識の隅でドアの開く音を聞いた気がしたが、最早指一本ですら、自分の力じゃ動かせなかった。
***
『叶多は僕の事が好き?』
『うん、大好き』
『じゃあ……ずっと傍に居るんだよ。約束だからね』
『分かった。約束する!』
『もし、破ったら……』
その時は ―― 。
「うっ……んう」
息苦しさに意識が戻った。
―― 今のは……初等部の頃の……。
まだ幼い御園と自分が密かに交わした約束は……今となっては守れないけど、きっと相手は覚えていない。今更何故、そんな夢を見たのか全く分からないけど、あの頃の自分はとても幸せだったと今なら分かる。
――― ここは……何処?
床では無い寝心地に……急に不安になった叶多は、視界を得ようと身じろぐけれど、身体を動かす事が出来ない。正確には、足はどうにか動かせるけど、手首が両方一纏めにされ頭上で拘束されていた。
「起きたか?」
「……ひっ!」
耳許から響いた声に、恐怖のあまり情けない声が唇から零れ出る。須賀がいると思うだけで身体がガタガタ震え出し、その様子に気づいたのだろう、また舌打ちが聞こえてきた。
「お前、逃げようとしてただろう?」
真上から顎を強く掴まれ、上手く息が出来なくなる。
全く明るくならない視界に、目を何かで覆われていると漸(ようや)く叶多は気がついた。
「携帯が、玄関に捨ててあった」
「ちが……落としただけ」
何を言っても無駄なんて事は百も承知していたのに、混乱してしまった叶多は拙いながらも反論する。
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