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「大人しくしてろ」 「いっ……!」  すると直ぐさまビシリと尻を叩かれた。先程何度も叩かれたそこは、ジンジンと熱を持っていて……また打たれる恐怖に叶多は動きを止めて息を詰める。 「……っ」  掌を握り、次の衝撃に身構えていた叶多だが……ほどなく歩く震動を受け、須賀の肩に担がれていると分かって小さく息を吐いた。  きっとこのままトイレに連れて行かれるのだと思ったから。  だけど予想は大きく外れ、固いフロアに下ろされて……目隠しを取り払われた瞬間、見下ろして来た須賀の表情を見て、自分の甘さを思い知った。  端整な顔に表情は無いが、それが尚更不安を煽る。  開けた視界に目を細めると、トイレではなくバスルームに連れて来られたと直ぐに分かった。 「あのっ、トイレに……」  どういう意図か分からない為もう一度告げてみるけれど、返事はやはり貰えない。裸の自分を光沢のある黒い寝衣を纏った須賀が、見下ろしているこの状況が……心許なくてたまらなかった。 「あ、あのっ……」 「分かってる。洗ってやるからそこに這え」 「なっ、そんな事……出来ません。僕は……」 「何度も言わせるな。何ならまた、誰かに抑えさせてもいいが……どうする?」 「……っ!」  薄い唇の片端だけを上げる姿に身体が震える。今は落ち着いた声音だけれど、怒らせれば何をされるかは身に染みて分かっていた。  ―― どうすれば……。  抵抗しても酷い目に遭うだけだという諦めと、言いなりになって味わう羞恥の狭間で揺れる叶多の心を、きっと見透かしているのだろう。  急かすような態度も見せずにじっとこちらを見据える瞳は、肉食獣のそれに近い。 「………」  絶対的優位にある者特有の落ち着きに、萎縮した叶多は何も答えられずに唾を飲み込んだ。  ―― 怖……い。  少しでも目を逸らしてしまえば咬まれるような錯覚に陥り、逡巡しつつも視線を逸らせず息をするのも困難になる。  せめて少しだけ距離を取りたくて後退ろうとしたけれど、どういう訳か思ったように身体が動かず焦っていると、突然動いた須賀に身体を伏せの形に返された。 「やっ……やめてっ」 「煩い」  何かを腹の下に差し込まれ、尻を突き出す形にされる。  この時叶多は自分の腰が抜けてしまっている事に、動揺と羞恥の余り全く気付けていなかった。

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