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「なっ」 「小泉君の為に、そこまで出来るなら教えやるよ」  肩越しに振り返ると、端正な顔は相も変わらず薄い笑みを浮かべているが、彼が何を考えているか全く以て分からない。何故彼が、自分を従者にしたいだなんて言うのかも。  ―― 俺が、絶対受け入れないと踏んで……か。  それなら理屈はすんなり通る。無理難題を押し付けて、体良くあしらうつもりなのだ。そのまま返さずわざわざ肩を掴んで瞬を引き止めたのも、『これ以上、この件に踏み込むな』と、忠告したいだけなのだ。 「なりたい奴なんて、幾らでもいるだろ」 「そりゃ……ね。だけど俺は瞬がいい。本当なら拒否権なんかあって無いようなもんだけど、瞬は特別だから。自分で決めて良いよ」 「俺は、特別なんかじゃない。圭吾がそうしたいなら、指名すればいい。ただ、それが交換条件なら、叶多の事を先に教えろ」 「へぇ……そこまでして、小泉君を助けたいんだ」  驚いたような表情をして、それから圭吾は手を離す。売り言葉に買い言葉のような状態になってしまったが、叶多を何とか助けたいから瞬は黙って頷いた。 「いいよ。じゃあ教えてあげる」  すんなりそう答えた圭吾へ訝しむような視線を向けると、迷っているのを示すように瞳が僅かに眇められる。 「結論から言うと……小泉君は御園の手駒だった。ご丁寧に返すようにと会長に手紙が届いたのが、一ヶ月位前かな。命令されて彼を調べたのは射矢。それを受けて会長が彼を従者にした……ガードも付けないでね」 「な……何で? 意味が分からない」  御園家と須賀家の確執は、ここにいる生徒の全てが知っている話だが、昔とは違い表面的には友好的になってきているし、射矢が調べた結果がどうあれ須賀には関わり無いだろう。

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