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早く行動しなければ、いつ誰が来るとも限らない。
斜め掛けのバックの中に最小限の荷物を詰め込み、玄関へ行って靴を手に取ると、リビングへと戻った叶多はカーテンを開けてベランダへ出た。
ベランダから非常階段へ出る為には、セキュリティーの解除が要るが、持っている鍵代わりの携帯電話をそこに翳すと、ロック外れる音が聞こえて叶多は心底ホッとする。
―― 大丈夫、行けそうだ。
この階段は学校とは反対側に位置しているから、誰かに見つかる可能性はかなり低いと思われた。
なるべく音を立てないように一歩一歩下って行く。あんなに感じた痛みも疲れも、緊張から来るえも言われぬ昂揚感で今は殆ど感じ無い。
―― よし、ここまで来れば。
振り続いている雨のせいで足元が少し滑るけど、どうにか下まで降りた叶多は、傘も差さずに寮を取り囲む木立の中へと身を隠し、携帯電話の電源を切ってそれを足元にそっと置いてから、学校を囲む森の中へと勇気を出して踏み込んだ。
【第一章終わり】
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