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唯人の父の秘書をしていた父親の背を見ていたから、自分もいずれ彼にとって信頼出来る部下になりたいと心の底から思っていた。だからこそ、尚更に……一人で解決出来ないからと泣き付くのは嫌だったのだ。
学校では、生徒会や家の用事で唯人がいない隙を狙っては虐めを受けていたけれど……心配させたくなかったから、いつも黙ってされるが儘になっていた。
徐々に酷くなるばかりの仕打ちに唯人に全てを打ち明けようと、一度は決意したけれど……そんな気持ちを見透かしたようにある時衣服を取り払われ、写真を撮られて脅されてからは見えない所を殴られても、突き飛ばされて傷を作っても、抵抗せずに耐えていた。
『写真バラ撒いて、ヤリまくってるって噂流すくらい簡単なんだよ』
『チクッたらどうなるか分かってるよな』
唯人が自分を信じないとは思わなかった。だけど、こんな醜聞が広まれば……彼にとってマイナスなのは火を見るよりも明らかだった。
―― きっと、抵抗しなかったから……どんどんエスカレートしたんだ。
当時は目先の事しか見えず、そこまで思考が至らなかった。
衣服を剥がれ、タバコの先を直接肌に押し付けられた時の恐怖は、今でも思い起こしただけで叫び出したくなる程だ。
初めて『止めて!』と叫んだけれど、そんな反応を得られたことが愉しくて仕方無いといったような彼等に届く筈も無く。
―― でも、それよりも……。
これ以上酷い事など無いと思ってその場は耐え抜いたが、そんな事よりもっと残酷な仕打ちが叶多を待っていて……結局唯人の前から姿を消さねばならなくなってしまった。
――唯(ゆい)……ごめん。
息子の御園唯人(ゆいと)と同様、彼の父親の明弘(あきひろ)も、叶多に会う機会があれば、気にかけ声を掛けてくれた。
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