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「さて……と」 「んっ、うぅっ」  ベッドの上で苦し気に呻く華奢な体に近寄ると、伊東は須賀の命令を無視して迷わずその手を彼へと伸ばす。  顔の半分は目隠しに覆われ見えないけれど、浅く呼吸を繰り返している薄く開いた唇が……まるで自分を誘っているように淫らな艶を帯びて見えた。 「これは、辛いな」  仰向けの状態で……太股に巻き付けられた革製の拘束具は、脚を閉じる事が出来ないよう棒状の物で繋がっている。更にそこから伸びた鎖が、頭上で一纏めにされている手首の革へと鎖で繋がり、腰の浮いた不安定な体勢を強いられていた。 「ココ、痛そう」 「くっ……んぅ」  上向きになったアナルの縁を指でなぞると体がビクつく。殆んど準備もされない内にバイブを挿入(い)れられたのだろう……少し捲れてしまったそこは、多少滑りを帯びてはいたが血が滲んでしまっていた。 「会長、怒らせちゃった?」 「……くぅっ」  まずはバイブのスイッチを切り、それをゆっくり引き抜いてやる。股の間から何の兆しも示していないペニスが見え……伊東は胸が痛くなったが、敢えていつも通りの声音で叶多にそう声を掛けた。 「……」  それに対する返事は無く、僅かに首が横に振られる。声は出せる状況だが、もしかしたら出すなと須賀に命令されているのかもしれない。 「大丈夫だよ。会長は当分帰って来ない」  目隠しを外し顔見ると、また熱が上がって来たのか、頬は赤く、目の焦点があまり定まっていなかった。それでも警戒しているのだろう、身体は強張り震えている。 「少し休みな。責任は俺がとる」  拘束を外し始めた伊東が、笑みを浮かべて叶多に告げると、唇が少し動くけど……言葉を紡ぐ事は無かった。 「……どうしてなんだろうな?」  誰に話し掛けるでもなく、伊東はポツリと独りごちる。

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