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「久世は……圭吾の従者になれて嬉しい?」
「佐野には関係無いだろ」
叶多の知る瞬とはまるで別人のような冷たい声に、自分が言われた訳じゃ無いのに背筋がゾクリと寒くなる。
「冷たいなぁ、折角だから仲良くやろうよ」
「嫌だね。それに――」
急に声が小さくなって瞬の言葉が途切れてしまい、叶多が思わず視線を上げると、睨むように佐野を見ながら何かを彼に告げていた。
刺さる視線を物ともせずに穏やかな笑みをたたえたまま、それを受け止める佐野の視線が突然叶多に向けられて……驚きの余り身を震わせれば、一層笑みを深めた彼が、瞬との話が終ると同時にこちらに向かって歩いてくる。
「ここ、俺の席ね」
「え?」
叶多の隣の席を指差して佐野が一言発すると……隣の生徒が慌てたように机ごと他へ移動して、少ししてから他の生徒が机と椅子を空いた場所へと運んで来た。
「ありがとう」
整った顔に綺麗な笑みを浮かべて佐野が礼を言えば、嬉しそうに頭を下げる心情がまるで理解出来ない。
―― こんなのおかしい。この人、一体……。
「教科書、忘れちゃったから見せて」
しかも、尤 もらしい理由をつけて机をピッタリ寄せてくるから、叶多はかなり動揺した。
「教科書なら、貸します。だから……」
「そうしたらキミが見れないだろ?」
ようやく放った叶多の言葉は途中で佐野に遮られ、「大丈夫だよ、何もしないから」と小さな声で囁かれれば、本当に訳が分からなくなって軽い眩暈を覚えてしまう。
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