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「…… 御園は、優しくしてくれたか?」 「あっ…… あぅっ」 「捨てられても、まだ好きなんだろ?」 「やっ、違っ…そんな…じゃ……ない」  口を離した須賀の言葉が、かろうじて耳に響いて来て、叶多は酸素を取り込みながら、何度も首を横に振った。  アナルの中を掻き回され、そこに感じる痛みや痺れに頭がおかしくなりそうだったが、それより唯人と自分の仲は、そうじゃないのだと伝えたかった。 「違ぅっ…… ちがっ……」  今まで一度もまともに聞いて貰えた試しは無かったが、それでも唯人の名誉だけは…… 守りたいと思ったのだ。 「嘘吐くな。夢に見るくらい、アイツの事が好きな癖に」 「なっ…… あぁっ!」 「もういい。黙れ」  再度『違う』と告げようとするが、アナルを甚振る指を増やされて声は掠れた悲鳴に変わった。 「お前、ホント……」 『ムカツク』と、須賀の唇が動くのを見て、胃の奥がギュッと痛くなる。  須賀からも、前の学校の生徒達からも何度も言われ続けてきて……叶多自身、そんな言葉には慣れたつもりでいたけれど、本当はそう思い込む事で無意識の内に自分自身を守っていた。 「……なら、放っておい…くださ……僕は、なにも……してなっ」  今まで何度も言おうとしては、喉で止まっていた言葉が、この時零れてしまったのは…… 疲労もあるけれど、諦め切れない自分が心の奥の方にまだ居たからなのかもしれない。  自分に悪いところがあるから何処(どこ)へ行っても嫌われる。  そう考えて、諦めて、ただ黙って時が過ぎるのを待とうとずっと思っていた。自分自身を改めようと思わなかった訳じゃない。だけど、叶多が何をしてみたところで状況は何も変わらなかった。

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