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 思わず口を開いた叶多が、何をどう聞き返せばいいのか分からず口籠った刹那、静まり返った教室のドアが勢いよく開かれた。 「下校時間はとっくに過ぎた筈だが?」  その行動とは裏腹な、静かな声が空気を揺らす。 「ドアはもっと静かに開けろよ。お前の従者がビビって震えてる」  それに答える佐野の声音は、いつもようにのんびりとしたものだったが……それが気に入らないのだろう、須賀は大きな音を立てながら開いたドアを後ろ手で閉めた。 「大人げねーの」  呆れたように佐野が呟く。 「そいつが俺を見て震えるのはいつもの事だ。お前はもういいから帰れ」 「……りょーかい。じゃ、小泉君、また明日ね」 「あっ」  頬をスウッとなぞった指に唇をツンと突かれて、叶多は思わず縋るような視線を佐野へと向けてしまった。 「随分、仲が良さそうだな」 「まあな。悠哉の大事なお姫様を守る為には、多少仲良くやんないと……また逃げられたら大変だろ?」  歩み寄って来る須賀の足音に叶多が身体を縮こまらせると、椅子から立った佐野が頭を軽く撫でてから離れていく。 「気持ち悪い事を言うな」 「あれ、違った?  だったらゴメン」 「もういい、行け」 「はいはい、分かりましたよ。会長」  苛立ったような須賀の言葉に肩を竦めてそう答えると、佐野はチラリと叶多を見てからドアの向こうへ姿を消した。  残された叶多はといえば、顔を上げる事も出来ずに俯いたままで震えている。 「帰るぞ」 「っ!」  突然手首をグイッと掴まれ、身体がビクッと大きく跳ねた。 「立て」  降ってきた低く威圧感のある声に慌てて立ち上がると、叶多は机の横に掛けてある鞄を片手を伸ばして掴む。  彼を待たせたり苛立たせるのは自分の為にならないと……昨日までの二日間で、体の奥まで染み付いていた。 「行くぞ」 「ぁっ」  強い力に手を引かれ、叶多はフラフラ歩き出す。  睡眠がとれたお陰で身体は朝より大分楽にはなったが、須賀と一緒に居るというだけで緊張のあまり眩暈がした。

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