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「ゔっ……んぅっ!」  口内を蹂躙する他人の舌の感触に、飛ばしかけていた意識を戻すと、視界は多少ぼやけていたが、至近距離にある須賀の顔だけは何とか認識する事ができた。 「ふっ……ぐうっ」  両手首を一纏めに掴まれ、もう片方の腕に背中を支えられている体勢では、身動きすら儘ならないから受け入れるしか術がない。  ―― な…なん……で?  クチュクチュという卑猥な音は耳に響いて来るけれど……いつものような激しさは無く、我に帰った叶多は酷くこの状況に狼狽した。 「ん……ふぅっ」 「少しは落ちついたか?」  須賀がゆっくり唇を離しそう尋ねて来るけれど……やはり上手く答えられずに叶多がコクリと頷くと、溜っていた涙が数滴泡の中へと吸い込まれる。 「明日、病院に行かせろってさ」 「……え?」 「お前の母親の見舞い。平日だけど父の予定がそこしか取れない。本来なら寮生の帰省は長期休暇と決まってるから、誰にも言うなよ」  言いながら、須賀は手首を掴む手を離し、それを叶多の背中へ回した。 「ビクつくな。何もしない」  すっぽり身体を抱き締められて、叶多が身体を強張らせると、更に両腕に力が篭って胸板に顔を引き寄せられる。  ―― 明日、お母さんに……。  須賀の言葉が本当ならば、久しぶりに会う事ができる。  ―― なんて言えば。  逃げるチャンスが突然降って湧いたことに、心臓が音を速めるけれど、同時に背中を満たす温もりになんだかとても困惑した。 「好きに動いてみればいい」  囁くような低い声。頭の中を見透かしたようなその言葉に、叶多は唾をコクリと飲み込み恐る恐る顔を上げる。 「でも、良く覚えておけ。お前の主は、俺だ」  そんな叶多を見下ろしながら、口角を上げ綺麗に微笑む彼の放った一言に……叶多は再度視線を落としてフルリと身体を震わせた。

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