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「はじめまして、叶多君……だね?」
「はじめまして、小泉叶多です。病院や僕の学校の事まで面倒を見て下さって、本当にありがとうございます」
叶多が深く頭を下げると、目前に立つ壮年の男は、
「そんなに畏 まらなくてもいいよ」
と優しい声音で告げてくる。
「叶多。ちょっと痩せたんじゃない?」
「うん、この前風邪をこじらせちゃって」
ベッドの上から話し掛けてくる母親に笑みを向けながら、そう答えたけど自分なんかより彼女の方が痩せた気がした。
「そうだったの、無理しちゃダメよ。新しい学校はどう?」
「勉強に付いていくのが大変だけど、何とかやってる」
「そう、お友達は……出来た?」
「出来たよ。同じクラスの人、久世君っていうんだ」
心配そうに尋ねて来る母の表情を見ていると、とても本当の事は言えなくて精一杯の虚勢を張る。名前まで出せばきっと彼女も安心してくれる筈だ。
「良かった。手紙を書こうと思ってたんだけど、なかなか時間が取れなくて……」
ふわりと微笑むその表情に、胸の奥が痛みを覚えた。
「もう子供じゃないんだから、そんなに心配しなくても平気だよ。それより、お母さんこそ早く元気になって、僕を安心させて」
本当は、腕に力が入らない事を知っている。強い投薬に耐えている母がこうして意識を保っているのも大変なのだと分かっているから、せめて心配は掛けたくなかった。
「分かった。お母さん頑張るから……叶多も、身体に気を付けて、勉強、頑張ってね」
伸ばされた細く白い掌を叶多が優しく握り返すと、もう片方の手も添えられて、感触を確かめるように何度か甲を擦られる。
「また、来るから」
「ええ、たまに友達も来てくれるし、みんな良くしてくださるから、お母さんは大丈夫。叶多も、無理しないでね……お母さん、すぐ元気になるから」
きっと酷く眠いのだろう。声が途切れ途切れになり、母の瞼が瞬きを何度も繰り返す。
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