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「須賀さんも……何から何まで本当に、ありがとうございます。貴方がいなかったらきっと……」 「いいんですよ。気にしないで治療に専念してください。私は蓮から頼まれた事をしているだけですので……礼は私がいつか天国に行った時、本人から受け取ります」  ポンと後ろから肩を叩かれて振り仰ぐと、悪戯っぽい笑みを浮かべる須賀の父親の顔があり、叶多も釣られて笑みを浮かべると小さく頷き返してくれた。 「どうやら、眠ってしまったみたいだね」 「そう……ですね」  春より大分弱ってしまった母を見ながら答えると、「出ようか」と、声を掛けられ叶多は彼の言葉に従う。 「これらは、週一位は来させるように言っておくから」 「いえ、そこまでは……」  廊下を歩き始めると同時にそう告げられて戸惑った。  須賀に「特別扱い」だと昨日言われてしまっただけに、自分一人が決まりを破る事にかなりの抵抗がある。  母親の事は心配だけれど見舞う前に主治医と話し、急変が絶対無いとは言えないまでも、今のままなら当分は大丈夫と言われていた。それも、真実かどうか分からないと思うほどに、母は衰弱していたけれど。 「君は、聡いね」 「え?」  横から頭を撫でられたけれど、嫌な感じはしなかった。 「一緒に夕飯を食べよう。君に話しておきたい事がある」 「はい」  断る理由も権利も無いと思った叶多が答えると、満面の笑みを浮かべた彼は 「良かった。断られたらどうしようと思ってた」 と、片目を閉じて告げて来る。  大財閥のトップなのにも関わらず、偉ぶったところのまるで見えない須賀の父親に驚きながら、叶多はまだ須賀の事を話すべきかを迷っていた。迷う理由など無い事は、頭の中では十分過ぎる程に理解していたのだが、何かが胸の奥の方で(とげ)のように(つか)えていた。

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