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「遅かったな」
食事をとって寮まで送って貰った時には十一時を過ぎていた。
病院まで車で二時間かかるから、仕方のない事なのだけど、言い返すなんて出来やしないから「ごめんなさい」と頭を下げる。
「別に怒ってる訳じゃない。さっさと風呂に入ってこい」
映画を観ていたのだろう。珍しくリビングにある大きなテレビが点いていた。
「はい」
叶多は小さな声で答えると、彼の座るソファーの後ろを通ってバスルームへ行く。
今日は色々な事があって酷く疲れてしまったから……出来る事なら夜の相手はさせられたくはなったが、風呂に入れと言われた事で希望は薄いと思われた。
―― 考えが……上手く纏まらない。
軽く身体を流した後、湯船に入った叶多は瞼を軽く閉じて考える。
『学費や医療費の事は、本当に気にしなくていいんだ。私は君のお父さんに、死後の財産の管理と、君やお母さんの後見人を頼まれただけだから』
食事の席に付いて早々、須賀の父親はそう話を切り出した。
『……え?』
『君のお母さんは、ちょっと勘違いしているみたいだけど、あれだけの大企業に勤めていたお父さんが、自分が病気だと分かった後……二人の事を考えなかった訳がない。ただ、私が少してこずっている間、二人を不安にさせてしまって申し訳ないと思っている』
頭を下げてそう告げてくる須賀の父親の姿に驚き、叶多は慌てて席から立つと、自分も深く頭を下げた。
席は個室になっているから誰かが見ている訳ではないが、こんなに立派な人から頭を下げられてしまっては……他にどうする事も出来ない。
叶多の母は難病で、何度も入退院を繰り返し強い薬を投与される内、きっと見ても分からないけれど多少精神も患っていた。だから、多分彼は自分に説明しようと考えたのだろう。
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