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『あの、学校で……』  ―― だけど、もし……。  彼の言葉が嘘だったら?  昨日須賀は『好きに動いてみればいい』と、余裕ありげに言っていた。  目の前に座る彼の父には今日初めて会ったけれど、紳士的で優しくて、叶多の事を考えてくれているようにしか見なかった。だがここに来て……いざ話そうと思ったところで、急に色んな不安が胸の奥から溢れ出して来る。  ―― この人が、全部知ってたら?  考えてみればその可能性も十分に存在する。  従者の制度は百年近く続いていると聞いているし、ならば須賀の父親も、学生時代はきっと制度を使う立場だったろう。  須賀が自分を従者にしたと告げた時点で、叶多の今の扱いを分かっていても不思議じゃない。  そして何より、どんなに優しい顔をしていても、表面だけでは分からない事を叶多は既に知っていた。 『……嫌なことは、無いです』  それだけどうにか絞り出すと、口角を上げて笑みを作り、『大丈夫です』と付け加えてから目の前にあったケーキを食べた。  ―― 誰を、信じたら……。  須賀の手から逃れる為に、頼った相手に更に手酷い仕打ちを受けない保証も無い。 『本当に?』  少し不自然だったのだろう。訝しむような彼の声が前から聞こえて来たところで、本当にこれで良かったのかという迷いが生じたけれど、結局何も言えなくなって叶多は小さく頷いた。   *** 「遅かったな。時間稼ぎか?」  そんなつもりは無かったけれど、考えに耽っている内、少し長くなってしまった。風呂を上がった時には既に日付を跨いでしまったが、須賀は変わらずソファーに座り映画を観ている様子だった。 「来い」  短く命令してくる声から苛立っているのが分かる。  竦んでしまいそうな脚をどうにか動かし前まで行くと、床に座れと指示されたから叶多はおずおず膝をついた。  毛足の長いグレイの絨毯が敷いてあるから硬くは無いが、服従させられている実感は更に色濃い物となる。

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