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「情報が少なすぎるな」
当初の射矢の情報では、叶多と彼の母親は……御園とその父親から切り捨てられたとされていた。
それならば何故『返すように』と促す手紙が、御園から須賀へ送られたのかが圭吾にはまるで分からなかったが、須賀は全てを見通したように『そういうことか』と言っていた。
そして、『返さない』とも。
「もしかして、御園の手紙に書いてあったのは……全然違うことだったんじゃ」
「それはどうだろう。でも、射矢には直接話を聞かないとならないな」
「ああ、そうだな。それにしても……須賀は何を考えているんだろう」
「それこそ全然分からないな。ただ、小泉君への執着は半端無い、もし逃すなら……こっちも覚悟を決めなきゃならないが……いいのか?」
返事は大体予測出来たが、それでも圭吾が言葉にすると、瞬は少し黙った後……その唇に微笑みを湛えて静かな声音で話しはじめた。
「圭吾に迷惑は掛けない。全部俺が考えて、圭吾は脅されたって事にすればいい。そうすれば、俺が退学になるだけで済む」
「そんなこと出来るかよ。そんな言い訳、通じる筈……」
「大丈夫、俺が何とかするから。今度はちゃんと……んっ」
『圭吾を守る』と声にする前に唇を口で塞がれて……瞬は驚きに目を見張るけれど、抵抗は一切せずに彼の行為を受け入れる。
「……んっ」
―― 圭吾は俺が好きだ。だから、その気持ちを逆手に取った事にすればいい。
「ふっ……んぅ」
薄く開かれた唇の中へ圭吾の舌が入って来るのを、緊張気味に受け入れながら、瞬の心は泣きたいような、嬉しいような、奇妙な気持ちに包まれた。
去年……副会長だった自分は、佐野の従者に選ばれた彼を助ける事が出来なかった。圭吾の気持ちをずっと知りながら、中途半端に返事もしないでいた癖に……命令とはいえ佐野を抱いたであろう彼を許せなかった。
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