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第3章

第三章  穏やかと言うのだろうか?  ただ慣らされてしまったのか? 「帰るぞ、小泉」  短く自分を呼ぶ声が聞こえ机から顔を上げて見遣ると、そこに須賀が立っていたから叶多は慌てて席を立った。 「またお迎え? 部屋に送るまでが俺の仕事だって言ってなかったっけ?」 「楽が出来ていいだろ」  向かいの席で雑誌を見ていた佐野の言葉を受け流し、叶多が荷物を纏め始めると、須賀はこちらを一瞥してから背中を向けて歩き出す。  近頃は、三日に一度くらいのペースでこんな事が続いていた。 「じゃ、小泉君、明日から頑張ろうな」  佐野がヒラヒラと掌を振る。  様々な事が起こったせいで、授業についていけなくなった叶多の中間テストの結果は散々で……それを知った須賀の父親が、佐野に勉強を見てやるようにと言ったのだと聞いたのが、少し前の出来事で ―― 。  母親の入院する病院で会って以来、須賀の父とは会っていないが、後見人の彼をあんまり失望させたくなかったから、こうして毎日佐野と図書室で放課後になると勉強していた。 「あの、ありがとう」 「いいよ、これが俺の仕事だから」  今までなかなか言えずにいたが、きちんと礼を言わなければと叶多が頭を下げて告げると、微笑を浮かべた彼が雑誌を閉じてそれに答える。 「行くぞ」  苛立ったような須賀の声に、弾かれたように視線を向けると、行ってしまったと思っていたのにドアの所に立っていた。 「あっ、はい」 「早く行きな」と促す佐野に、小さく頷き返した叶多は急いで須賀の方へと向かう。  相変わらず無口な須賀に怯える気持ちは変わらずあるが、最近は……どこかが麻痺でもしたかのように隣に居ても震えなくなった。  下校中も部屋に戻っても会話らしい会話は無い。

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