128 / 301
6
「こんばんは。確認しないで開けるのは、無用心ですよ」
「こんばん……は」
久々に見た射矢の姿に何事かと目を丸くすると、
「話があるので、私について来て下さい」
いつものように淡々とした事務的な口調で告げてくる。
「えっと、会長が……何か?」
「時間があまり無いので、後から説明します。とりあえず今は私について来て下さい」
通常……会長の命令でしか動かない筈の射矢だから、多分今回もそうなのだろうが、叶多は戸惑い立ち竦んだ。
以前、学級委員長だった岩崎について行ってしまった時、受けた仕打ちを思い出せば、これが何かの罠じゃないと信じられる保証は無い。
「あまり時間がありません。早く」
「あっ」
手を引かれ、反射的に解こうとすると、更に強い力を込められバランスを崩し前のめりになる。
足を踏み出してどうにか転ぶのだけは避けたが、靴もきちんと履けていないまま部屋から廊下に出た叶多は……一気に不安な気持ちになって身体をカタカタ震わせた。
「急いで下さい」
それを気にする様子も見せずに階段へ向かい歩く射矢の、片方の耳にイヤホンのような物が入っているのが見える。
「あの、何処へ?」
「安全な所です。エレベーターだと止められたら終りですので、少し歩いて貰います」
非常階段は叶多が以前逃げ出した時に使用したが、あれ以来……この階だけは、鍵が掛けられているはずだ。
「一体……何が?」
「それは、後で話しますから」
何時も冷静な射矢がどこか焦っているように見えてしまい、それ以上は声を掛けられず叶多は黙って彼に続いた。
***
非常階段を下り学園とは反対方向へと歩き、少し進んだ先に見えたのは、煉瓦造りで重厚そうな二階建ての建物だった。
建物自体の規模としては、一般住宅より大きいが、屋敷と言うにはこぢんまりとした印象を叶多は受ける。
ともだちにシェアしよう!