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「こんばんは。確認しないで開けるのは、無用心ですよ」 「こんばん……は」  久々に見た射矢の姿に何事かと目を丸くすると、 「話があるので、私について来て下さい」 いつものように淡々とした事務的な口調で告げてくる。 「えっと、会長が……何か?」 「時間があまり無いので、後から説明します。とりあえず今は私について来て下さい」  通常……会長の命令でしか動かない筈の射矢だから、多分今回もそうなのだろうが、叶多は戸惑い立ち竦んだ。  以前、学級委員長だった岩崎について行ってしまった時、受けた仕打ちを思い出せば、これが何かの罠じゃないと信じられる保証は無い。 「あまり時間がありません。早く」 「あっ」  手を引かれ、反射的に解こうとすると、更に強い力を込められバランスを崩し前のめりになる。  足を踏み出してどうにか転ぶのだけは避けたが、靴もきちんと履けていないまま部屋から廊下に出た叶多は……一気に不安な気持ちになって身体をカタカタ震わせた。 「急いで下さい」  それを気にする様子も見せずに階段へ向かい歩く射矢の、片方の耳にイヤホンのような物が入っているのが見える。 「あの、何処へ?」 「安全な所です。エレベーターだと止められたら終りですので、少し歩いて貰います」  非常階段は叶多が以前逃げ出した時に使用したが、あれ以来……この階だけは、鍵が掛けられているはずだ。 「一体……何が?」 「それは、後で話しますから」  何時も冷静な射矢がどこか焦っているように見えてしまい、それ以上は声を掛けられず叶多は黙って彼に続いた。   ***  非常階段を下り学園とは反対方向へと歩き、少し進んだ先に見えたのは、煉瓦造りで重厚そうな二階建ての建物だった。  建物自体の規模としては、一般住宅より大きいが、屋敷と言うにはこぢんまりとした印象を叶多は受ける。

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