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「そろそろ、大丈夫かな」
少し走った所で止まると、瞬はこちらを振り返り、息を切らせてふらついている叶多の背中を優しく擦 る。
寮には戻らず正門の方へ向かっているのは分かったが、やはり情況が分からないから、何が起きているのか聞こうと叶多が口を開いた時……瞬が「ごめん」と呟いたから、言葉を止めて首を振った。
「逃げたい……よな。でも何処にも逃げる先がないから、我慢するしかないって思ってる。違う?」
「……違わ…ない」
「何でこんなことになってるんだろうな。俺は叶多を助けたい。このまま俺の家の別荘に連れて行けたらって、だけど……」
「分かってる。僕は大丈夫だから……今、何が起きてるのかも分からないけど、こうして瞬と話せたから、だから……ありがとう」
未成年の自分達に、何が出来るというのだろう。
もし仮に、彼がここから叶多を何処かに逃したとしても、見付けられてしまったら……後見人の理事長の元へ連れ戻されてしまうだけだ。
「須賀は……どうして叶多にだけ、辛く当たるんだろうな。叶多が従者になってすぐ、何日か休んだ時あったろ? あの時、須賀が全校集会で、『小泉叶多に手を出すな』って言ったんだ。だから、もしかしたら、上手くやってるんじゃないかって……でも、違うって分かって……」
「それってどういう……」
初めて聞いたその内容に心が酷くざわついた。
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