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「唯、目が……」
「ああ、見えないよね。目隠ししてるから」
「な……なんで?」
「今は見えない方がいいから……ね」
優しそうに響く声音は以前と同じ物なのに……違和感を持った叶多はそれ以上の言葉を紡げず、そこに居る筈の唯人に向かって口を小さく開閉させた。
「まあ、そうだな」
違う方から聞こえた声も叶多の良く知る人物の物で、どうしてこんな状況なのかを教えて欲しくて堪らなくなるが、あまりに動揺しているせいで上手く言葉が見つからない。
「叶多、どうして嘘を吐いた?」
「……え?」
「ずっと俺の傍に居るって言ったのに、どうして何も言わないで消えたの?」
「それは……」
唐突にされた質問と共に頬を指先がツッと這う。手首は拘束されたままだから、もう一つの声の主である佐野に掴まれているのだろう。
「後見人が……須賀さんだって……だから」
「違うよ、叶多。まだ後見人は須賀じゃない」
「なっ……やぁっ!」
唯人の問いを無視するなんて昔から出来やしなかったから、話せる範囲で答えた途端、思いも因らない答えと共に、シャツのボタンを引きちぎるように袷の部分が開かれて……驚きの余り叶多の口から悲鳴に近い声が上がった。
「そう、まだ須賀家じゃない。裁判になるかもしれないけど、完全に決まった訳じゃない」
喉を鳴らしてクスリと笑う感情の見えない佐野の声に、身体中に鳥肌が立って叶多はカタカタ震えだす。
「どうして? なん……で」
「さあ、なんでだろうな。そうだ、一つだけ教えてやるよ。俺と悠哉は兄弟だ、母親は違うけど……な」
「え?」
「お喋りはそこまでだ。そんなに時間が無いからね。叶多、ちょっと痛いかもしれないけど、我慢するんだよ。大丈夫、俺は叶多の味方だ。これまでだってそうだったろう?」
優しく頭を撫でられれば、不思議と体の強張りが解け、甘い声音に操られるよう叶多は小さく頷き返す。
「いい子だ」
「唯……」
もう会う事など出来やしないと今まで思ってきただけに……こんなおかしな状況だけれど、このまま彼に縋りつきたいような衝動に叶多は駆られた。
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