134 / 301

12

「大丈夫、全部上手くいく。叶多は俺を信じてればいい」  鎖骨の辺りをなぞる指先に叶多は小さく息を詰める。唯人がこんな触れ方をしたのは初めての事だったから……もしかすると、薬のせいで見ている幻影なのかもしれない。 「いいよ」  彼が一言そう言い放つと、誰かが動く気配がした。  この空間には佐野と唯人しか居ないと思い込んでいたから、それが誰かを問おうとするが、唇を薄く開いた途端に何かを口に押し込まれ……吐き出そうにも上からテープで塞がれてしまい叶わない。 「んっ……んんっ!」 「ホントにいいのか?」 「……これだけの痕を付けられてるんだ、今更だろ?」 「違いない」  煙草の痕が付いた辺りを爪でツンと突かれて、羞恥の余り身体を捩って隠そうとすると、手首を掴む佐野の掌が肩の辺りを抑え込んだ。 「んぅっ、んんっ!」 「動くなよ」  ―― 怖い、怖いっ。 『信じろ』と、唯人は言った。だけど、この状況は酷くおかしい。  ―― でも……でも。  叶多にとって御園唯人は絶対的な存在で、優しくて、優れていて、いつも叶多を気遣ってくれて……。  ―― だから、きっと……。  この行動にも何か必ず正しい理由がある筈だ。そうでなければ、今まで自分が信じた全てを失ってしまう。 「んっ……んぐぅっ!」  薬の所為で良く回らない頭で必死に考えていると、左の鎖骨の下の辺りに突如灼熱が押し付けられた。 「うぐっ! ……んっ、んぅ―― !」 「ほら、暴れない」  落ち着き払った唯人の声。  時間にすれば一瞬だったが、何も見えない状況の中で身構える事も出来なかったから、混乱した叶多は暴れ、唯一動く脚を何度もバタつかせて逃げを打つ。 「もう終わった。叶多、落ち着くんだ」 「んっ……うぅ」  そんな叶多を優しく抱き締め唯人が低く囁くと……どういう訳か身体の力が抜けて意識がぼやけてきた。

ともだちにシェアしよう!