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「大丈夫、全部上手くいく。叶多は俺を信じてればいい」
鎖骨の辺りをなぞる指先に叶多は小さく息を詰める。唯人がこんな触れ方をしたのは初めての事だったから……もしかすると、薬のせいで見ている幻影なのかもしれない。
「いいよ」
彼が一言そう言い放つと、誰かが動く気配がした。
この空間には佐野と唯人しか居ないと思い込んでいたから、それが誰かを問おうとするが、唇を薄く開いた途端に何かを口に押し込まれ……吐き出そうにも上からテープで塞がれてしまい叶わない。
「んっ……んんっ!」
「ホントにいいのか?」
「……これだけの痕を付けられてるんだ、今更だろ?」
「違いない」
煙草の痕が付いた辺りを爪でツンと突かれて、羞恥の余り身体を捩って隠そうとすると、手首を掴む佐野の掌が肩の辺りを抑え込んだ。
「んぅっ、んんっ!」
「動くなよ」
―― 怖い、怖いっ。
『信じろ』と、唯人は言った。だけど、この状況は酷くおかしい。
―― でも……でも。
叶多にとって御園唯人は絶対的な存在で、優しくて、優れていて、いつも叶多を気遣ってくれて……。
―― だから、きっと……。
この行動にも何か必ず正しい理由がある筈だ。そうでなければ、今まで自分が信じた全てを失ってしまう。
「んっ……んぐぅっ!」
薬の所為で良く回らない頭で必死に考えていると、左の鎖骨の下の辺りに突如灼熱が押し付けられた。
「うぐっ! ……んっ、んぅ―― !」
「ほら、暴れない」
落ち着き払った唯人の声。
時間にすれば一瞬だったが、何も見えない状況の中で身構える事も出来なかったから、混乱した叶多は暴れ、唯一動く脚を何度もバタつかせて逃げを打つ。
「もう終わった。叶多、落ち着くんだ」
「んっ……うぅ」
そんな叶多を優しく抱き締め唯人が低く囁くと……どういう訳か身体の力が抜けて意識がぼやけてきた。
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