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「叶多、お前は今日……誰とも会ってない。いいね、俺と会った事は内緒だ」
「……うぅ」
唇からテープを剥がし、中に入れられた布のような物を取り出して唯人は言う。
「叶多は、俺の知…ない所で……された」
―― 何を、言ってるの?
聞き逃したくないのに声が途切れ途切れになってきて……それは先程の布に含まれた睡眠薬のせいなのだけど、そんなことなど知らない叶多は必死に瞼を開こうとした。
「……い、ゆ…い」
せめて一目だけでも顔が見たくて、必死に名前を呼ぶけれど……それに応える声は聞こえず、次の瞬間柔らかい物がふわりと口に触れて来る。
「ん……んぅ」
「……可哀相に」
「お前だって、一緒だろう?」
そのまま……意識を無くしてしまった叶多に二人の会話は聞こえなかったが、目隠しを外しその眦に指を這わせた御園の貌は、慈愛に満ちた天使のように綺麗な笑みを浮かべていた。
***
「テストはどうだった?」
「多分、前回よりは……少し出来たと思います」
「そうか」
須賀から突然話し掛けられ、しどろもどろに答えるけれど、会話はそこでプツリと途切れて、二人しかいない生徒会室が気まずい空気に包まれる。
期末テスト最後日の今日、帰宅の準備をしていた叶多の教室へと須賀が現れ、驚く叶多の目の前に立って「行くぞ」と短く告げて来た。
てっきり一緒に下校するものと思った叶多がついていくと、向かった先は寮では無く、四階にある生徒会室で。
―― 何か、あるんだろうか?
三日前……ベッドで目覚めた叶多の隣に珍しく須賀の姿があった。
いつもは一緒に眠っても、朝目を覚ますと居なくなっている事が殆どだったから、驚きはしたがそれよりもっと気になることが叶多にはあった。
―― あれは……あの出来事は……。
ほとんど同時に目覚めた須賀は何も言わずに出て行ったから、その前日……自分を襲った出来事は全て夢じゃないかと思ったけれど、焼けつくような肩の痛みに真実であるとすぐに悟った。
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