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それからの会議はまるで生きた心地がしなかった。
膝の上から降ろして貰えず、いつ秘密が暴かれてもおかしくない状況に、震えは止まらず心臓の音がずっと煩く響いていた。
議題としては、今後何かが起こった時の対応と、その時の個々の連携確認、そして……佐野の行方を捜す手段が次々と話し合われていたが、聞こえていても頭の中にちっとも入って来てくれない。
「……立て、帰るぞ」
「あっ」
所在なさげに俯いたまま黙っている叶多の耳に、須賀が一言そう告げると、ビクリと大きく跳ねた身体はバランスを失い傾いた。
「気を付けろ」
それを片手で受け止めながら叶多の顔を覗き込むと、蒼白な顔に大きな瞳が潤んでいるようにも見える。
「ごめんなさい」
素直に謝罪を唇に乗せる叶多の身体を膝から降ろし、隣の椅子に座らせた須賀は、役員が皆退室したのを横目でチラリと確認してから、シャツの合わせ目に指を伸ばしてボタンに手を掛け外し始めた。
「やっ、やめてください」
「動くな」
弱々しい拒絶の声に低く一言そう命じれば、抵抗しようと動いた腕はピタリと動きを止めるけど……歯の根が合わなくなる程酷い震えは全く収まらない。
全てのボタンを外して脱がせ、中に着ていたタンクトップの肩の部分をずらしてやると、小さな印はまだ腫れていたが、炎症までは起こしていないようだった。
「これは……俺と、お前を診た医者しか知らない」
「え?」
「佐野は知ってるだろうがな。御園に付けられたんだろ?」
「ち、違います」
「お前……馬鹿だな。どうして何も見てないし、聞いてもいない筈なのに、御園じゃないって分かるんだ?」
「あっ」
上げ足を取ってそう尋ねると、ハッとしたように瞳が開かれ、みるみる顔が青くなる。
そんな叶多の様子を見ながら、この状況での犯人なんて御園以外にあり得ないから、そんなに気に病む必要はないと内心須賀は思ったけれど、教えてやる気はまるでなかった。
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