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「桔梗……か」 「うぅっ」  抗生物質をビタミン剤だと言って毎日飲ませていたから、化膿する心配はないが、相当肌が弱いのだろう、軽く指でなぞっただけで顔を歪める叶多を見ながら、薄くなった煙草の痕も、付けられた時はかなりの痛みを伴ったろうと考えかけ……須賀は小さく首を振る。  今、それを考えるのは、良く無い事のように思えた。 「御園と、会ったんだな?」  語気を強くして再度問うと、俯いた叶多の身体がビクリ大きく脈を打つ。 「会って……ません」  全てをこちらに知られているのはもう分かっている筈なのに、それでもか細く否と言う彼に、一瞬にして須賀の心は憤りに似た感情で満ち、気付いた時には肩の印に爪を立てて引っ掻いていた。   *** 「いっ……あぅぅっ!」  痛みにたまらず悲鳴が上がる。 「嘘を吐くな」と声がするけれど、須賀の中での答えが既に一つしか無いのであれば、こんな質問をしてくる方がおかしいだろうと叶多は思った。 「お前、こんな事されても……アイツに操を立てるつもりか?」 「いっ、やめっ!」  指先で腫れた印をなぞられ、堪らず叶多は身体を捩るが、至近距離から見下ろされている現状では、圧迫感に上手く身体を動かせない。 「アイツは、こんな痕まで付けられたお前を、助けてもくれなかったんだろ?」 「違っ、僕が隠してたから……だから、だからっ」 「お前、御園が本当に何も知らなかったって信じてるのか?」  煙草の痕に指を這わされ馬鹿にしたように問われれば、心の奥に仕舞おうとしていた記憶が途端に呼び起こされて、叶多は大きく首を振りながら耳を塞いでしまおうとした。 『……これだけの痕を付けられてるんだ、今更だよ』  あの日、叶多の身体の傷痕を見ても驚いたようなそぶりも見せず、確かに唯人はそう言った。  ―― 違う、唯には何か考えが……。 「や、やめっ!」 「逃げるな」  手首を頭上で纏め上げられ、もう片方の掌で顎を掴まれ顔を上向きにされる。

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