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 学校はあと数日で、夏休みへと突入する。  休み中の予定はまだ一つも入っていないけど、多分自由は無いだろうと叶多は半ば諦めていた。 「あ、チャイム鳴っちゃった。また休み時間に来るから」 「うん、ありがとう」  瞬の言葉に笑みを向けると、叶多は軽く手のひらを振る。こんな何気ない会話でも、彼と言葉を交わせるだけで気持ちは大分和らいだ。  ―― 空が青い。  前方の席へ座る瞬の背中を視線で追ってから、叶多は窓の外へと目を向け小さく一つ息を吐く。  冷房の完備されている教室内は涼しいが、登校中は蒸し暑く、蝉の声が響いていた。様々な事に追われる内に嫌いな梅雨は終わりを告げ、いつの間にか季節は夏に色を変え、木々の緑が目に眩しい。  ―― 僕は、これから……。  どうなっていくのかなんて想像すら出来ないけれど、それでも考えずにはいられない気持ちを何とか切り替えようと、教科書へと視線を落とし、授業に集中しようとした時、ドアが開く音が聞こえて教室内がざわついた。 「……あっ」 「佐野っ、お前……」  叶多が声を出したのと同時に瞬が席から立ち上がる。 「久世君、授業中だよ」 それに飄々と答えた佐野は、 「遅刻してすみませんでした」 と、悪びれる様子も見せずに教師に向かって一言告げ、唇に薄い笑みを浮かべて叶多の方へと歩いて来た。 「……っ」  彼の席は隣だから、当たり前の行動なのが、最後に会った時を思い出せば自然と体は震えてしまう。 「教科書見せて」  視線を逸らす事さえ出来ずに佐野を凝視していると……クスリと笑った彼は以前と同じように席をくっつけ叶多に小声でそう告げた。  久し振りに顔を見せたのにも関わらず、教師は彼を咎めるでもなく、まるで何事も無かったように続きの授業を続けている。  瞬はといえば、一瞬こちらに来ようとしたが、どういう訳かまた席に座って授業を受け始めたようだ。 「大丈夫、何もしないよ」  耳元でそう低く告げられ、まるで子供をあやすかのように背中をトントン叩かれて……叶多はかなり困惑したが、授業中の教室内では何も起こりはしないだろうと考え直して教科書をサッと彼と自分との間に置いた。

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