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「俺に聞きたいこと、あるんじゃない?」
気にしないように板書をノートに写していると、佐野が横から囁いてきて、堪らず叶多は視線を向けると小さく彼に頷き返す。
「あーあ、折角俺が触っても震えなくなったのに、また逆戻りか……で、何が聞きたい?あんま時間が無いから手短に……ね」
「あ、あなたは一体……唯とどういう……」
『関係なのか?』と続けようとした丁度その時、教室のドアが再度開いて、振り仰いだ叶多の視界に伊東の姿が映り込んだ。
「流石久世君……仕事が速いなぁ」
「佐野さん、会長の従者から離れて下さい」
「いいよ。だけど、お前等の会長の命令に従って、この子は幸せになれると思う?」
「お前がそれを言うのか? お前だって……」
その言葉に、勢い良く席を立った瞬が反論するけれど、同時に立った佐野が指し示した教科書のメモを見た途端、頭の中が一杯になって何がなんだか分からなくなる。
「じゃあ、思ったより時間なかったから、話は今度会った時に……またね」
そんな叶多の頭を撫で、そう言い捨てた佐野は窓へと近付き手早くそこを開くと、二階だというのにそこから下へと綺麗に飛び降りた。
「佐野っ」
慌てたように近付いた瞬が窓の下を覗くけれど、すでに姿は無かったらしく、伊東を見遣って首を振る。
「仕方ないな。ったく……何がしたいんだか」
肩を竦めた伊東がそう呟いた時に授業は終わり、叶多はそっと教科書を閉じると、興味津々と言った様子でこちらを見て来るクラスメイトの視線が痛くて俯いた。
「大丈夫だった? 何かされたり言われたりしてない?」
心配そうに尋ねる瞬に、
「大丈夫だよ」
と返事をしながら、思い出したように叶多の心拍数が跳ね上がる。
‘’終業式の後 叶多が母親を見舞った帰り 唯人と一緒に迎えに行く”
本当なら、書き残された佐野からのメモを彼等に見せるのが筋なのだろうが、どうしてもそれが出来なくて……叶多はギュッと手のひらを握ると渇いた口内を潤すようにコクリと唾を飲み込んだ。
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