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「ありがとう。叶多は優しいな」
そんな気持ちを汲み取ったように、瞬が笑みを深めた所で保健室へと辿り着き……ドアをガラリと開いた彼が、
「先生、ちょっと外して貰っていいですか?」
と、中へ向かって声をかける。
「あれ? 瞬が来るなんて、珍しいね」
「十分でいいから」
「もしかして、その子って……」
「会長の従者」
「へえ……彼が。分かった、三十分やる」
叶多自身、保健室へと来たのは初めてだったから、養護教諭を見たのも勿論初めての事だったけど……どこかで見た事があるような既 視感 に襲われた。
「今の、圭吾の兄貴。ちょっと似てるだろ?」
「あっ……うん。似てる」
彼が横を通った所ですぐに理由が明らかになり、叶多は思わず後ろを向くと、立ち去る背中へ視線を向ける。
掛けている眼鏡のせいか顔の印象は違って見えたが、声質や話し方、それに歩く後ろ姿は確かに伊東と似ている気がした。
「さて、やっと二人で話せる」
ドアの鍵を閉めた瞬に誘 われ、堅いベッドに叶多が座ると、丸椅子を持って来た彼がそれを正面に置いて腰を下ろす。
「叶多……だいぶ痩せたみたい」
眉尻を下げてそう話す彼に、『そんな事ない』とはとても言えないような状況だから、叶多は小さく首を振って「心配しないで」と笑みを浮かべた。
「あんまり時間が無いから……叶多が聞きたいって思ってる事を話してくれる? 俺が分かる範囲で答える。俺から叶多に聞きたいことは、その後聞くから」
「……分かった。じゃあ、聞くけど……ゲームって何?」
焦ったように話す瞬に、三十分しか無いのだから遠慮をしている暇は無い……と、思った叶多は一番聞きたい事を急いで口にする。ターゲットは自分だと、言われた時からずっと気になっていた。
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