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「ねえ叶多……叶多は何が一番怖い? 明倭で一体何があった?」  叶多の置かれた環境の中で、一番の脅威は須賀だと信じて疑わずにいたが……もしかしたら違うのでは無いかと(にわ)かに思えてくる。  だから思わずそう尋ねると、ハッとしたしたように瞳を開いた叶多がガタガタ震え出したから、慌てて瞬は立ち上がった。 「叶多っ」 「戻りたくない……あそこには、戻りたくない」 「分かった、分かったから」  頭を抱えて小さく呟く叶多の背中をさすりながら、言ってはいけない事を言ってしまったのだと後悔する。  ―― でも……。  多分、これ以上の話を彼から今聞くのは困難だが、瞬が一番知りたいことは叶多の口からきちんと聞けた。あとは、どうやって彼を今置かれている環境から解放するかだ。 「圭吾は、もう少しだけ見守ろうって言ってたけど……」  叶多が壊れてしまう前に、然るべき措置を取らなければ、後悔してもしきれない。 「叶多、俺はずっと友達だから……だから、もうちょっとだけ……」  聞こえているかは分からないけど、そっと耳元で囁くと、震えが僅かに小さくなって、叶多がコクリと頷いた。 ***  父親の葬儀の後、一人で生活をしてみて初めて自分の学費の高さを知り、どうしようかと悩み続けて二ヶ月程が経過した頃、御園の父に呼び出された。 『残念だけど、君のお父さんには、負債しか残ってないんだ』  父の葬儀やそれに関わる諸々の手続きは、御園の父の厚意に甘え、全てを任せる形にしたから、そんな彼からそう告げられても、叶多は全く疑わしいとは思わなかった。  初七日の時に渡された父の通帳はほとんど空で、ひとつだけ……御霊前袋の中身が入った通帳を見詰め、これを母親の医療費に宛て、自分はどこかで働くしか道は無いと半ば決意を固めていた。 『お母さんの病院代が、かなりかさんでしまったらしい。特例として退職金も先に渡してしまっていたし、言い辛いが、このままだと、学校も退学しなければならないだろう』  だけど……そんな風にはさせたくないと、端正な顔を曇らせながら、唯人の父は叶多に言った。  叶多が父の代わりをすれば、全ての資金を援助すると。そうすれば全て上手く行くし、大学を卒業すれば、自由になれると彼は語った。

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