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「最初は勝敗にこだわってなかった。だから、佐野の真意を確かめようとお前のガードに据えた。でも……」
「……あっ」
「こんな痕……」
寝衣の前を少しはだけさせ、焼印にそっと手を這わせながら、独白のように須賀は呟くが意味はほとんど分からなかった。
ただ、彼のこんなに人間らしい表情を目にしたのは、初めてではないだろうかと叶多はぼんやり考える。
「あ、あの……」
「なんだ?」
「今日、佐野さんが……教室に来て……」
だからなのか、そうでないのかは分からないけど、瞬には言えずにいた出来事を、彼に告げようと思えたのは……恐怖の対象でしかなかった須賀に対しての自分の気持ちが、ここ数日でほんの少しだけ変わって来たからなのかもしれない。
「ああ、知ってる。取り逃がしたって言ってたな。……ったく、アイツは自由にやりすぎだ。で?」
「……あ、それだけ……です」
だけど、結局言葉にできなくて……叶多は視線を須賀から逸らした。
唯人には会いたい。だけど、きっと何の事情も知らない唯人の元へと赴けば……間違いなく、彼の父親と再会する羽目になる。
だかといって、ここで須賀に助けを求めてどうなるというのだろう。
少しでもマシな方になどという打算も出来ない叶多だから、どうすればいいか分からなくなって、掌をギュッと握りしめながら、小さく左右に首を振った。
「そうか」
低く答える須賀の声音が、陰りを帯びて聞こえたのは……叶多の勘違いだろうか?
「寝るぞ」
上から退いた彼に告げられ、心臓が音を少し速める。
一緒にベッドに入る時にはいつもセックスをしていたから、今日も多分そうなのだろうと思うけど……こればかりは幾ら経っても慣れることが出来なかった。
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