158 / 301

36

「最初は勝敗にこだわってなかった。だから、佐野の真意を確かめようとお前のガードに据えた。でも……」 「……あっ」 「こんな痕……」  寝衣の前を少しはだけさせ、焼印にそっと手を這わせながら、独白のように須賀は呟くが意味はほとんど分からなかった。  ただ、彼のこんなに人間らしい表情を目にしたのは、初めてではないだろうかと叶多はぼんやり考える。 「あ、あの……」 「なんだ?」 「今日、佐野さんが……教室に来て……」  だからなのか、そうでないのかは分からないけど、瞬には言えずにいた出来事を、彼に告げようと思えたのは……恐怖の対象でしかなかった須賀に対しての自分の気持ちが、ここ数日でほんの少しだけ変わって来たからなのかもしれない。 「ああ、知ってる。取り逃がしたって言ってたな。……ったく、アイツは自由にやりすぎだ。で?」 「……あ、それだけ……です」  だけど、結局言葉にできなくて……叶多は視線を須賀から逸らした。  唯人には会いたい。だけど、きっと何の事情も知らない唯人の元へと赴けば……間違いなく、彼の父親と再会する羽目になる。  だかといって、ここで須賀に助けを求めてどうなるというのだろう。  少しでもマシな方になどという打算も出来ない叶多だから、どうすればいいか分からなくなって、掌をギュッと握りしめながら、小さく左右に首を振った。 「そうか」  低く答える須賀の声音が、陰りを帯びて聞こえたのは……叶多の勘違いだろうか? 「寝るぞ」  上から退いた彼に告げられ、心臓が音を少し速める。  一緒にベッドに入る時にはいつもセックスをしていたから、今日も多分そうなのだろうと思うけど……こればかりは幾ら経っても慣れることが出来なかった。

ともだちにシェアしよう!