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「来い」
聞き慣れた声の命じるままに、黙って彼の後へと続き、広いベッドへと一緒に上がる。いつもはこのタイミングで、「脱げ」と命令されるから、おずおず寝衣を脱ごうとすると、「今日はいい」と止められたから不思議な気持ちに包まれた。
「お前がやりたいって言うなら、話は別だが」
巻き込むように背後から身体を抱き締められてそう告げられ、恥ずかしくなった叶多は、
『だって、いつも……そうだから』
と、言いたくなるのをぐっと堪えて、彼に身を任せ布団に沈む。
「耳が赤いな」
最近の須賀は凄く変だ。いつもはこんなに優しくなんて触れないし、話だってほとんどしない。
「終業式の後、病院に見舞いに行く。とりあえず、ゲームの期日は夏休みの終わりまでだから、それまで側を離れるな。一度は御園に遊ばれたが……次は無い」
「あっ」
不意に項にチュッと吸いつかれ、吐息が思わず漏れてしまうが、本当に何もする気が無いのか、前に回された須賀の掌が離れて背中を向けられた。
「寝ろ」
最初の内は、
『いつ命を狙われるか分からない』
と、必ず拘束しついたのに……そんな相手に背中を向けていいのか? と叶多は思う。
同時に……常にあった彼の温もりが失われてしまった事に、喪失感を感じてしまう自分が自分の中に居て……。
―― こんなの、おかしい。
あんまり酷くされてきたから、少し優しくされたくらいでこんな風に思うのだ……と、叶多は自分を納得させるが、それだけでは説明出来ない感情が胸の奥にはあった。
「おやすみ」
声が聞こえて、「おやすみなさい」と叶多は返す。
瞬も須賀も、ゲームを唯人が仕掛けて来たと言ったけど、とても信じられなくて……だけど、彼等が嘘を吐いているようにも見えなくなってしまった叶多は、何を信じれば良いのか分からず、瞼を閉じて夢の世界へ逃避するという道を選んだ。
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