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 ***  叶多が迷っている内に、その日はとうとう明日に迫った。 「叶多は夏休み中、ずっと寮にいるの?」 「分からないけど、多分」  ここまできても分からないから、曖昧にしか答えられない。すると、目の前に座る瞬は少し困ったように微笑みながら、 「やっぱりあの時、須賀にちゃんと言っとくんだった」 と、独り言のように呟いた。 「瞬はどこか行くの?」 「うーん、実家に顔を出さなきゃだけど、叶多がいるならなるべく早めに戻ってくる」 「いいよ、僕のことは気にしないで」  瞬には小さな妹と、中学生の弟がいると以前叶多は聞いていた。  弟は生意気だけど、妹が可愛いのだと良く話してくれていたから、帰省すればきっと暖かい家族に迎えてもらえるのだろう。 「叶多ぁ、そこは嘘でも嬉しいって言わなきゃダメだよ。俺が寂しいだろ」  ガシリと肩に腕を回されて、冗談っぽく告げられたから、そういうものかと思った叶多が 「ごめん」 と素直に謝ると、急に真顔になった瞬が、 「最近須賀とはどう? 酷い事されてない?」 と、顔を寄せて小さな声で聞いて来た。 「大丈夫……かな?」 「かなって何? 本当に平気なの?」 「う、うん」  心配させてはいけないと思い、頷きながら答えると……訝しむような表情はしたが、予鈴が鳴ってしまった為に、そのまま席へと戻っていく。  ―― どうしよう。  結局誰にも御園からのメッセージを、佐野が自分に伝えたことを言えずにここまできてしまった。  この数日、叶多の周りは前に比べてかなり穏やかになっている。学校以外の時間は全て須賀と一緒に過ごしているが、生徒会室でしてから一度も彼とセックスはしていなかった。  何故かなんて考えてみても、答えなんて分からない。  だが、少しでもそれを勘違いして、気を許してしまったら……また足元を掬われるに違いないと叶多は自分を戒めていた。  それに、『俺と会った事は、内緒だよ』そう……あの時唯人に言われたから、それが見えない鎖となって叶多は口を開けない。  幼少の頃からずっと叩き込まれた忠誠は、叶多自身が思うよりずっと深い場所まで刻まれていた。

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