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叶多が迷っている内に、その日はとうとう明日に迫った。
「叶多は夏休み中、ずっと寮にいるの?」
「分からないけど、多分」
ここまできても分からないから、曖昧にしか答えられない。すると、目の前に座る瞬は少し困ったように微笑みながら、
「やっぱりあの時、須賀にちゃんと言っとくんだった」
と、独り言のように呟いた。
「瞬はどこか行くの?」
「うーん、実家に顔を出さなきゃだけど、叶多がいるならなるべく早めに戻ってくる」
「いいよ、僕のことは気にしないで」
瞬には小さな妹と、中学生の弟がいると以前叶多は聞いていた。
弟は生意気だけど、妹が可愛いのだと良く話してくれていたから、帰省すればきっと暖かい家族に迎えてもらえるのだろう。
「叶多ぁ、そこは嘘でも嬉しいって言わなきゃダメだよ。俺が寂しいだろ」
ガシリと肩に腕を回されて、冗談っぽく告げられたから、そういうものかと思った叶多が
「ごめん」
と素直に謝ると、急に真顔になった瞬が、
「最近須賀とはどう? 酷い事されてない?」
と、顔を寄せて小さな声で聞いて来た。
「大丈夫……かな?」
「かなって何? 本当に平気なの?」
「う、うん」
心配させてはいけないと思い、頷きながら答えると……訝しむような表情はしたが、予鈴が鳴ってしまった為に、そのまま席へと戻っていく。
―― どうしよう。
結局誰にも御園からのメッセージを、佐野が自分に伝えたことを言えずにここまできてしまった。
この数日、叶多の周りは前に比べてかなり穏やかになっている。学校以外の時間は全て須賀と一緒に過ごしているが、生徒会室でしてから一度も彼とセックスはしていなかった。
何故かなんて考えてみても、答えなんて分からない。
だが、少しでもそれを勘違いして、気を許してしまったら……また足元を掬われるに違いないと叶多は自分を戒めていた。
それに、『俺と会った事は、内緒だよ』そう……あの時唯人に言われたから、それが見えない鎖となって叶多は口を開けない。
幼少の頃からずっと叩き込まれた忠誠は、叶多自身が思うよりずっと深い場所まで刻まれていた。
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