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 ―― でも……。  たったそれだけで今までの傷が消えて無くなる訳じゃない。だけど……ここに来て叶多は初めて、須賀という人物の色んな面を目にしていた。  ―― どうすれば……。 「久世に何か伝えること、あるか?」 「僕は……」  迷いの中、何かを言わなければならないと、叶多が口を開いた瞬間、車が急停止する。 「あっ」  バランスを崩した叶多を須賀が両腕で包んだ所で、運転手がドアから降りて後方のドアをガチャリと開いた。 「叶多、おいで」  驚いた事にその向こうにはどういう訳か唯人がいて……ドアの中へと腕を伸ばし、叶多の腕を強く掴む。 「唯っ」 「まだ、見舞いに行く途中だ」 「そんな細かい事、気にするなよ」  彼の向こう側から佐野の声が聞こえたような気がするが、混乱する思考とは別に、叶多にはもう唯人の事しか見えなくなってしまっていた。 「おいで」  美しく整った顔が、薄く笑みを浮かべている。操られるよう少し動くと、背後からきつく抱き締めていた腕がゆっくり離れていった。 「唯、僕は……」 「おかえり叶多。話しは後で、ゆっくりしよう」 「え? あっ……んっ、ううっ」  自ら車を降りたところで、叶多の意識はプツリと切れる。背後から……佐野に薬を嗅がされてしまったからだ。  だから……そのあと御園と須賀と佐野が、どんな会話を交わしたのかも勿論聞こえていなかったし、御園と一緒に現れた佐野が、どういう訳か須賀の車に乗り込んだのも見えなかった。

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