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薄暗いせいで良く見えないが、艶を帯びたその表情は……長い付き合いがある筈なのに、初めて目にする類の物だった。
「さて……と」
ベッドヘットへと伸ばされた手がカチリと何かを押すと同時に、部屋の天井の四隅に付いたライトへと……淡い光りが灯される。
眩しさに目を眇めた叶多の目許へとキスを落とした唯人は、そのままペロリと頬を舐め……鎖骨辺りの古い傷跡を確かめるように指を這わせた。
「随分、汚されちゃったみたいだけど、心配しなくていい。俺が……綺麗にしてあげるから」
「んっ……くぅっ」
不意に、露わになった胸の尖りを親指の腹で撫でられる。
まさか唯人がこんな行動に出るとは思いもしなかったから、パニックになった叶多は彼を押し退けようとするけれど……身体は何かが纏わりついたように殆ど動かなかった。
「……ゆぃ…やっ……」
「硬くなってきた」
「ふっ………あぅ…ん」
身体の自由は利かないのに……彼に触れられた場所だけが何故か熱を持って疼き出す。
自分の身体に何が起こっているのかさえも分からないまま、それでも唯人の巧みな愛撫に堪らず叶多の唇からは、あえかな吐息が漏れてしまった。
「男なのに、乳首で感じるようになっちゃった?」
「ちがう……やぁっ」
まるで感心したかのような、唯人の言葉が突き刺さる。
「怯えなくていいよ、怒ってる訳じゃない。俺の知らないところでっていうのが、ちょっと頭に来たけど……作り替えればいいだけだから」
「……え?」
―― 何を……。
唯人が何を言っているのか、全く理解出来なかった。
もしかしたら、彼の姿はしているけれど、中身は違う人間なのではないかと思えてしまうくらいに、彼の発言や行動は……叶多の理解を超えていて。
「何も考えなくていいって言ったろう?」
「あっ……っ!」
オレンジ色の灯りに照らされた綺麗な顔が、叶多の胸元へと沈む。
同時にザラリとそこに這わされた濡れた舌の感触に、叶多は大きく瞳を見開き声にならない悲鳴を上げた。
「だ…め……ゆいっ!」
彼が、こんな事をする筈がない。信じ難いその行動に、これは悪夢だと思いたくなるが、彼の指先が胸の辺りからゆっくり臍の窪みをなぞり、そのまま股間へ移動したから、現実逃避も出来なくなって叶多は必死に制止を求めた。
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