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『これを、日付順にCのファイルへ閉じておけ』
『は、はい』
何故――辛い事ばかりだった筈なのに、こんな平和な光景が……映し出されているのだろう?
『お前、映画を見たことも無いのか?』
『……無いです』
『そうか』
細切れに再生される唯人の元へと戻る直前の光景に……これは自分の見ている夢だとすぐに悟る事が出来た。
生徒会室でのやりとりや、部屋に戻った後のリビングでの光景が、まるでスライドショーのように頭の中で再生される。
それは、叶多の学生生活の中で、瞬と一緒に過ごした時間の次に穏やかな物だった。
『まだ会長来ないから、ちょっと座って休んでな』
『大丈夫? 顔色悪いよ?』
今更のように思い出される、自分を気に掛け気遣う言葉。
それまでが過酷すぎたせいで、また何かの罠ではないかと常に叶多は怯えていたから、瞬や伊東や他の生徒会役員達の優しさに……当時は全く気づけなかった。
―― 僕は、逃げてばっかりだ。
そうするしか出来なかったと自分自身に言い訳をして、結局自分の意志を言う事も諦め切ってしまっていた。
―― でも……。
暴力は怖いし痛い。それに抗がえる力も無いし、言ったところで何も変わらないと嫌と言うほどに知っている。
だけど同時に、『本当にそうなのか?』と心の奥から声が聞こえて、自分の中に芽生えた矛盾に叶多は内心戸惑った。
「あ…うぅ」
『分かった。お前を信じる』
覚醒しかけた叶多の脳裏に、以前須賀の放った言葉が一際大きく木霊する。
言われた当時は何が何だか分からずに、信じる事も出来やしないから、思考そのものを放棄して、感情に蓋をしたけれど―― 。
「う……んぅっ」
「起きた?」
すぐ耳元で聞こえた声に叶多は身体を強ばらせ、反射的に逃れようと腕を前に伸ばすけど……腰へ回された腕に阻止されて身じろぐ事しかできなかった。
「……ゆい?」
「もうちょっと寝てたら終わったのに」
「あっ」
表面を泡で満たした湯船へ一緒に入っているのだと……気付いた叶多が声を上げると、クスリと含み笑いを漏らした唯人が股間に触れてくる。
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